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シドニーの朝、サブスクリプションの画面に浮かぶ「新機能」の文字が、静かに波紋を広げている。オーストラリア競争・消費者委員会（ACCC）は2025年10月27日、マイクロソフトがAIアシスタント「Copilot」を個人・家族向けのMicrosoft 365に組み込んだ後の案内で、より高額なプランへ誘導したとして同社を提訴した。約270万人に及ぶ影響が示され、デジタル時代の表示と選択のあり方が問われている出来事だと映る。
値上げ告知の陰で何が起きたのか
ACCCが焦点を当てたのは、Copilot統合後のサブスクリプション画面における伝え方である。従来の「クラシック」プランが引き続き選べるにもかかわらず、その選択肢がわかりやすく示されず、利用者が高額なプランへの移行が必要だと受け止めかねない表示が続いたと主張する。選択肢が「解約」の導線でしか見えにくい設計は、重要な情報の非開示に当たりうるという見立てが浮かぶ。
ACCCは、2024年10月以降に送られた案内や画面表示が、約270万人の利用者に誤った印象を与えたとみる。争点は単なる値上げではなく、価格や機能、継続可否といった意思決定に不可欠な情報が、いつ、どこで、どのように示されたかにある。法廷では、表示の文言や導線設計、既存プランの扱いが詳細に検証される展開が見込まれる。
救済の姿勢も明確である。ACCCは、罰金に加え、消費者救済や差止命令、費用負担までを求めると示した。違法性の認定は裁判所の判断に委ねられるが、公共機関が「表示」と「選択」の質を問うたことで、プラットフォーム事業者全体に設計の再点検を迫る圧力が広がっていると映る。
広がる影響と利用者にできること
今回の提訴は、AI機能の「同梱」を巡る世界的な論点を照らす。新機能の価値訴求が高まる一方で、既存プランの継続可否や価格差が見えづらくなれば、利用者の選択は実質的に狭まる。ACCCは近年、通信やデジタル分野での誤認リスクに厳しく目を光らせており、今回もその延長線上にあるとみられる。設計次第で「自由な選択」は容易に損なわれるという緊張感が広がっている。
個々の利用者にとって大切なのは、自分が何に対価を払っているのかを能動的に確かめ直すことだ。画面の初期設定だけで判断せず、契約更新や解約の導線を含めて選択肢を見渡す。案内メールやポップアップのスクリーンショット、契約履歴の保存は後日の証拠にもなる。昨年秋以降に受け取った値上げやプラン変更の通知が手元にあれば、時期や文言を見返すだけでも判断材料が増えるはずだといえる。
事業者側にとっては、表示の再設計が急務である。新機能の訴求と同時に、現行プラン継続の選択肢や価格差、変更手順を同等の視認性で示すことが、リスク低減への近道だ。とりわけ解約ページの奥にだけ残すような設計は、規制当局の厳しい視線を招きやすい。自発的な改善と透明性の向上が、長期的な信頼を支えるとみられる。
企業の反応と審理の行方
ACCCの発表時点で、マイクロソフトの詳細な見解や反論は十分に確認できていない。今後、同社が主張する「誤解の余地がない設計」や「改善済みの措置」が示されれば、審理の争点はさらに絞り込まれるだろう。AI機能の同梱が利用者利益をどれほど正当に高めたのか、そしてその伝え方は適正だったのかが、核心に据えられる。
裁判所は、表示の実態や内部手順、影響人数など多面的な証拠を突き合わせる。結論いかんでは、価格表示やプラン設計のガイドラインが実務レベルで見直され、他国の規制当局にも波及する可能性がある。AIを梃子にしたプロダクト戦略と、利用者の自律的な選択をどう両立させるか。そのバランスが、今回の訴訟を超えた長い問いとして残ると映る。
