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ティム・クックCEOのもとで巨大企業へと成長してきたAppleが、静かに次のかじ取り役を探し始めている。2025年11月15日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、クック氏が2026年にも職を退く可能性があり、取締役会と経営陣が後継者選びを加速させていると伝えた。その中心には、ハードウェアエンジニアリング担当上級副社長ジョン・ターナス氏の名前が浮かび上がっている。
AppleがCEO交代に備え、ターナス氏を軸に後継者探しを本格化
報道によれば、Appleの取締役会と上級幹部はここ数か月、クック氏の退任を見据えた話し合いを一段と増やしているという。クック氏は2011年にスティーブ・ジョブズ氏の後任としてCEOに就任して以来、14年以上にわたって同社を率い、時価総額を数千億ドル規模から約4兆ドルへと押し上げたとされる。一方でフィナンシャル・タイムズは、こうした動きが業績悪化によるものではなく、計画的な経営体制の移行と位置づけられていることも強調している。
今回の報道では、ハードウェアエンジニアリング担当上級副社長のジョン・ターナス氏が「最有力候補」として複数の関係者から名指しされている。もっとも、Apple自身はコメントしておらず、新CEOの発表は2026年1月下旬の決算説明会より前には行われない見通しとされる。最近では、長年クック氏の右腕とみなされてきたジェフ・ウィリアムズ前COOが退任し、後任にサビフ・カーン氏が就いたばかりで、経営トップ層の世代交代が一気に進みつつある。
エンジニア出身トップ候補、ジョン・ターナス氏の歩みと存在感
ターナス氏は1997年に米ペンシルベニア大学で機械工学の学位を取得し、バーチャル・リサーチ・システムズでVRヘッドセットの開発に携わった後、2001年にAppleのプロダクトデザインチームに加わった。2013年にはハードウェアエンジニアリング担当バイスプレジデントとなり、2021年にはハードウェアエンジニアリング全体を率いる上級副社長として経営陣入りしている。iPadの全世代や最新のiPhoneシリーズ、AirPods、Appleシリコン搭載Macなど、ここ20年あまりの代表的な製品の多くでハードウェア面を取りまとめてきた人物だ。
Bloombergの報道を紹介した記事などによると、社内ではターナス氏のプレゼンテーション能力や落ち着いた性格が高く評価されているという。クック氏に近い幹部からは「人前での説明がうまく、物議を醸すようなことをメールに書かない慎重な意思決定者」と評されており、穏やかなマネジメントスタイルはクック氏と通じる部分もあると伝えられてきた。近年のAppleイベントでは、初代Appleシリコン「M1」や新型「iPhone Air」など重要なハードウェアの発表場面で前面に立つことが増え、一般のユーザーにも顔と名前が知られる存在になりつつある。
クック時代への賛否と、エンジニア社長に託される次の一歩
クック氏の下でAppleは、売上や利益の規模、サービス事業の拡大など定量的な成果では歴代でも突出した実績を残してきた。その一方で、一部の熱心なファンや投資家からは「製品の刷新が段階的で、ジョブズ時代のような驚きが減った」との声も根強い。Apple Vision Proの販売スタートが期待ほどの勢いを欠いたことや、生成AIや音声アシスタント分野で競合他社に先行されているとの見方は、クック体制への批判と結びついて語られることが多い。フィナンシャル・タイムズも、AIブームに沸く他の巨大テック企業と比べて株価の伸びが相対的に抑えられている点を指摘している。
そうした不満を背景に、「ものづくりの現場を知るエンジニア出身のトップ」が選ばれれば、技術や製品ビジョンを前面に出した経営への転換が期待できるという見方もある。これまでもソフトウェア担当のクレイグ・フェデリギ氏やマーケティング担当のグレッグ・ジョズウィアック氏、そして長く最有力候補と目されてきたジェフ・ウィリアムズ前COOなど、複数の名前が後継候補として取り沙汰されてきた。しかし、ウィリアムズ氏の退任や幹部陣の世代交代が進む中で、今はターナス氏に視線が集中している。クック氏が築いたオペレーション重視の強固な土台に、ハードウェアエンジニアならではの視点がどのような色合いを加えるのか、世界中のユーザーと市場は静かに成り行きを見守っている。
