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出社前のスマホに、見慣れないSMSの通知がまたひとつ積もる。そんな朝の情景が、企業の現実を映す。詐欺対策サービスを手がけるトビラシステムズが、経営陣と従業員を対象に意識調査を実施したところ、経営陣の77.3％が自社で不審電話や詐欺メール・SMSに関する被害や被害未遂を経験したと答えた。現場と管理の両輪で、対策の再点検が迫られていると映る。
数字が語る、社内で起きていること
調査は10月2〜3日にインターネットで実施され、会社役員960人（25〜70歳）と公務員・会社員965人（25〜65歳）が回答した。経営陣の77.3％が「自社で詐欺や不審電話、詐欺メール・SMSの被害・被害未遂などのインシデントを経験」と答え、組織の多くで何らかの兆候が生じている実情が浮かぶ。一方で、従業員側の体感も軽くない。
従業員では、業務で使うスマートフォンなどのモバイル端末でインシデントが発生したとする回答が70.6％に達した。メールや電話に限らず、認証情報の詐取やアカウント乗っ取りを狙う手口が横断的に侵入するなか、個人の手元にある端末が組織の入り口になる構図が広がっているとみられる。数字は、現場の最前線がモバイル側に寄っていることを示す。
対策の実装状況を見ると、PCでは「対策を行っている」と答えた経営陣が55％だった。具体策は「ウイルス対策ソフト導入」が92.6％、「定期的な注意喚起」が40.5％で続いた。典型的な守りは敷かれているが、更新や運用の継続性、そして人の行動に届く啓発が十分かは別問題である。数字の手堅さと、運用のすきまの差がにじむ。
報告が止まる職場、にじむ油断
最も看過できないのは、発生後の報告の滞りだ。インシデントを経験した従業員のうち、72.8％が「内容を会社へ報告しなかった」と答えた。理由は「報告が面倒だったから」が35.5％と最多で、「大したことではないと思った」が33.5％、「報告先や手順が分からなかった」が11.9％と続いた。小さな違和感が埋もれ、被害の拡大を招く連鎖が見える。
背景には「自分は被害に遭う可能性は低い」と感じる意識の広がりがある。従業員の41.4％がそのように答え、日常に紛れる脅威への感度が下がっている様子がうかがえる。攻撃は巧妙化し、正規の連絡と見分けがつきにくい。にもかかわらず、違和感の共有が遅れれば初動は鈍る。報告文化の醸成は、技術対策と並ぶ「最初の防波堤」である。
対策を講じていない理由も、現場の手触りを物語る。PCとモバイル端末の双方で「どのような対策を行えばいいか分からない」が4割強（PC42.8％、モバイル41.3％）に達し、「コストがかかる」（PC35.0％、モバイル34.6％）も続いた。必要性は理解しても、優先順位付けと費用対効果の説明が追いついていない現実がにじむ。意思決定の壁がここにある。
モバイルの穴を塞ぐ、いま取れる打ち手
今回の数字で際立つのは、モバイル対策の遅れだ。「対策を行っている」と答えた経営陣は39.0％にとどまった。内容はPCと同様に「ウイルス対策ソフト導入」（84.8％）や「定期的な注意喚起」（41.4％）が上位だが、端末紛失やアプリ由来のリスク、SMSのなりすましなど、モバイル固有の脅威は別の層を持つ。PC基準の延長だけでは隙が残ると映る。
まずは「報告のしやすさ」を設計することだ。ワンクリックで共有できる連絡窓口、スクリーンショットの提出テンプレート、報告後に不利益が生じないルール化など、心理的・手続き的なハードルを下げる。あわせて、注意喚起は「例示」と「演習」によって行動に落とし込む。実際の詐欺SMSや不審電話の文面を用いた短時間の疑似体験は、感度を確実に底上げする。
技術面では、既存のPC対策を土台に、モバイル管理の段階的導入が現実的である。端末の暗号化やリモートワイプ、アプリ配布のホワイトリスト化、SMSフィルタや迷惑電話対策の活用など、費用対効果の高い機能から積み上げる。経営側には、被害未然防止だけでなく報告活性化による「発見の早さ」も投資効果として可視化する視点が求められる。小さな兆しを拾える組織が強い。
