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薄暗い画面に新しい百科事典のトップが浮かぶ。xAIが立ち上げた「Grokipedia」は、既存のウィキペディアに対抗するAI生成型の知識ベースだ。2025年10月28日、公開が相次いで伝えられ、マスク氏は「真実を徹底追求する」姿勢を示したと報じられている。オンラインの信頼をどう作り直すか、その実験が始まったと映る。
新参の百科事典が見せた「初速」
公開が伝えられたのは2025年10月28日である。現時点で確認されている範囲では、初期版としての公開で、生成AIアシスタント「Grok」が中心となりコンテンツを生み出す構成だ。マスク氏は従来の百科事典を「イデオロギー的に偏っている」と批判してきた経緯があり、新サイトについても「すでに優れている」と主張したとされる。立ち上げ直後からアクセスが集中し、情報空間の枠組みを塗り替える意図がにじむ。
一部報道では、公開当日に多数の項目が並んだとされ、規模感を強調する論調が目立った。ただ、公式に精緻な集計や更新頻度が示されているわけではなく、数の多寡だけでサービスの質は測れないという冷静な見方も広がっている。初期段階のプラットフォームにありがちな変動が続く可能性は高く、コンテンツの改善プロセスこそが注目点といえる。
運営面では、xAIの採用情報に「Grokipedia」の検索・リトリーバルに関わる職種が掲出されており、検索品質や情報取得の基盤強化が継続テーマであることがうかがえる。立ち上げの勢いをどう維持し、どこまで精度と再現性を積み上げるか。実装と人材の両面からの投資が続く構図が浮かぶ。
ぶつかる視座と「中立」をめぐる溝
対するウィキペディアは、ボランティアによる執筆・査読の積み重ねで成立する協働型の百科事典である。運営団体は、中立的観点、検証可能性、独自研究の不許可といった基盤的な方針を明示し、編集の議論や出典確認を公開の場で進めてきた。編集合意を重ねながら情報の均衡を図る手つきは、政治的立場の違いを越えて信頼を得てきたプロセスでもある。
一方で、マスク氏は従来からウィキペディアの編集体制に強い疑義を呈し、政治的に偏っていると批判してきた。今回の公開でも同様の問題意識が前景化し、「Grokipedia」は別種の中立性を志向する受け皿として位置づけられているとみられる。Aは協働と合意形成、BはAI生成と高速更新——手法の対比が、そのまま情報の信頼設計の違いとして立ち現れている。
問われる信頼—AI生成の百科事典は何を変えるか
AI生成の百科事典は、更新速度とカバレッジで優位に立ちうる半面、出典の扱いと検証の手順をどう可視化するかが要諦となる。モデルの学習データや推論過程に潜む偏りは、運営の透明性や反証可能性が弱ければ、そのまま記事に染み出すリスクがある。逆に、出典の明示と修正履歴の公開、異論の扱いを制度化できれば、AI時代の新しい編集作法を示すこともできるはずだ。
公開直後から各国メディアが検証や論評を重ね、評価は割れている。現時点で確認されている範囲では、政治・科学・社会の論点で表現の差異が指摘される一方、迅速な要約や構造化に可能性を見いだす声もある。鍵を握るのは、間違いが出たときの訂正速度と、根拠の提示方法だ。AIが生み出す記述と、人間の合意形成が支える記述。その二つをどう折り合わせるかが、これからの分水嶺になると映る。
