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石破茂首相が2025年9月30日、韓国の李在明大統領と会談するため釜山を訪れた。ソウル以外での二国間首脳会談は異例で、夏の東京会談で掲げた「シャトル外交」の動きを具体化する一歩となった。両国関係の地図を描き直す場面が、港町の空気の中で始まった。
釜山で交わされた握手の意味
海風が湿り気を運ぶ港に車列が滑り込む。石破首相は釜山市内の会場で李在明大統領と向き合い、短い言葉を交わして握手した。会談は2025年9月30日、対話の舞台を首都から離し、地方の現場に置くという選択そのものがメッセージになった。
開催地の選定は韓国側の強い意向と日本政府関係者はみる。現時点で確認されている範囲では、地元の期待感もにじむ報道が続き、会談の周辺は穏やかな熱を帯びた。ソウルの強い重力を離れることで、地域の課題を共有する視線が前に出た。
一方で日本国内には、政治日程をにらんだ動きと冷ややかに評する向きもある。だが場所を変えたことは、形式に染み付いた慣行を離れ、関係の再設計を可視化する試みでもある。儀礼の厚みより、具体の協力に近づく通路を選んだ格好だ。
近さを言葉に、往来を形に
両首脳は8月23日、東京で会談し共同で記者発表に臨んだ。国交正常化60周年の節目を意識しながら、首脳間の往来を定例化する方針を示し、いわゆるシャトル外交の再開を掲げた。今回の釜山会談は、その合意を現実の移動に落とす第一歩となる。
往来の再開は、言葉の往復だけでは届かない距離を縮める作法だ。会談体制の整備に加え、少子化や地方創生など共通する社会課題で知見を持ち寄る枠組みも示された。課題の共有は、歴史認識の相違や安全保障の判断の違いを越える足場になり得る。
釜山という地理は、海を挟んだ近さを可視化する。移動時間が短い往来は、危機対応の連絡にも効く。会えば進む、会うから進む。そんな素朴な原理を、首脳同士の頻度と場所の工夫で取り戻す。形式の更新は、関係の基礎体力を静かに底上げする。
釜山から先の課題
会談の主題は多層だ。北東アジアの安定、経済安全保障、供給網の強靱化。そこに人口減少や防災といった生活直結の議題が重なり、協力の種類は増える。接点を増やすことが、政治の季節の変化にも耐える強度になる。
米国を軸とする地域秩序の調整が難しさを増す局面では、日韓の意思疎通の安定が自国の選択肢を広げる。首脳会談の固定化は、双方の国内政治の動きに左右されがちな雰囲気を抑え、関係を基盤として運用するための保険になる。
人事の行方や政策の細部は移ろう。だからこそ、枠組みを先に走らせておく意味がある。釜山での一歩は小さく見えて、重い。握手の先に置かれるのは、会う理由を増やすことだ。会うべき理由が増えれば、会わない理由は自然と減っていく。
