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昼下がりの店内で、紙袋を手にした客が透明のフタに口を寄せる光景が浮かぶ。日本マクドナルドは2025年10月27日、コールドドリンクのフタを「ストローなしで飲める」新型へ切り替えると発表した。全国で11月19日から順次展開し、リサイクルPET100％の新フタにより、過去の容器包装の見直しと合わせて年間約6600トンのバージンプラスチック削減を見込むという。目標に掲げた「2025年末までの素材転換」を具体化する一歩が動き出す。
フタが変える日常の飲み方
新しいフタは「ストローレスリッド」と呼ぶ。3年以上をかけて設計を重ね、ストローなしでも飲み口が開けやすく、テイクアウトやデリバリーの揺れでも不用意に開かない構造に仕上げたと同社は説明している。指先で押すと小さな飲み口が開き、持ち運びの最中も密閉性が保たれる設計思想がにじむ。一度開けた後でも、車内や移動時に扱いやすい仕様だと映る。
炭酸飲料向けの工夫も盛り込んだ。振動で内圧が上がりやすい配送環境でも噴き出しにくい形状を採用し、宅配の現場で課題となってきた「開封時の泡だれ」を抑える意図がある。現場のスタッフにとっては、梱包の手数を減らしながら品質を守る新オペレーションの導入でもある。小さな部品の刷新だが、日常の一杯の体験を静かに変えていく。
切り替えは2025年11月19日から全国で順次始まる。現時点で確認されている範囲では、子どもの飲食時やハッピーセットの利用時には引き続きストローを提供し、マックシェイクやマックフィズ、フラッペ、スムージーなどの一部商品も従来どおりストロー付きとする見通しだ。場面に応じた選択肢を残しつつ、基本動作を変えるアプローチがうかがえる。
数字でみる削減効果と素材の転換
数字は具体的だ。新フタはリサイクルPET100％で構成され、これまでの容器包装の変更と合わせて年間約6600トンのバージンプラスチック削減を見込む。店舗数や提供杯数の多さを考えれば、わずかな重量差の積み重ねが大きな削減につながる計算である。使い捨てプラスチックの置き換えを前提に、リサイクル材を主役に据える設計思想が読み取れる。
同社は「2025年末までに、お客様提供用の容器包装類を、再生可能な素材、リサイクル素材または認証された素材に変更」を掲げ、2022年から見直しを段階的に進めてきた。紙フタや紙カトラリーの導入、ナゲットの紙製カップ化など、店舗での小さな変化が積層している。今回のフタは、その延長線上にある中核部品の更新であり、行動変容を伴う点で一段踏み込んだ施策といえる。
レジ袋も追随する。全国の店舗でバイオマスプラスチック95％を使う新レジ袋の導入を順次進め、2025年5月には長崎県の全店舗で先行運用して耐久性や使用感を検証済みだとする。レジ袋有料化以降、袋自体の使用量は減っているが、素材の転換によって残る需要の環境負荷をさらに軽くする狙いが透ける。店舗外へ出る導線でも、素材選択の見直しが広がっている。
残るストローと子ども向けの配慮、そしてその先
すべてを一足飛びに変えるわけではない。小さな子どもが安心して飲めるように、対象の注文では引き続きストローを添える。とりわけハッピーセットは家族の注文動線の要であり、急な仕様変更は戸惑いを招きやすい。段階的な移行は現場の混乱を避ける意図があるとみられる。マックシェイクなど“吸って味わう”商品も、体験価値の核がストローにあるため当面は据え置く判断だ。
子ども向けの環境配慮は本の形にも表れた。2025年3月に登場した「ほんのハッピーセット」では、従来のバージンプラスチック製ハードカバーからFSC認証の紙製ソフトカバーへ切り替え、パッケージも紙袋へ置換した。ページをめくるたびに素材の違いが手触りで伝わる。おもちゃについても2025年末までにサステナブルな素材への全面移行を掲げ、遊びの場からもプラスチックの在り方を問い直している。
国内ではプラスチック資源循環の強化が進み、素材転換や再資源化の仕組みづくりが小売・外食の共通課題になった。今回のストローレス化は、単にストローをなくすだけでなく、飲み方そのものを更新する提案である。店舗のカウンターに並ぶ新フタの山を見上げると、日々の「一杯」を支える部品の軽やかな変化が、次の標準を作っていく風景が広がっている。
