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リモコンが止まる居間の静けさのなか、ホーム画面に次々と映像が走る。いま、その裏側で鳴っているのは人の手だけではない。2025年10月22日、Netflixが株主向け書簡で生成AIを「重大な好機」と位置づけ、制作現場から発見・広告までの活用を鮮明にした。だが同日の決算説明会で経営陣は、創造そのものは人が担うという一線を改めて示したと映る。
生成AIは「重大な好機」か
Netflixは株主向け書簡で、生成AIが作品づくりを支える局面が増えていると強調した。具体例としては、アダム・サンドラー主演の続編「俺は飛ばし屋/プロゴルファー・ギル2（Happy Gilmore 2）」での回想シーンの若返り表現など、VFXの領域での実装が挙げられたと報じられている。制作準備段階での衣装・美術のアイデア探索や、サービス内の新しい広告フォーマットの試験運用でもAIを試す姿勢を見せ、適用範囲は広がっているとみられる。
一方、決算説明会でテッド・サランドスCEOは、AIは物語を「より良く、より速く、新しい方法で」届ける道具になり得ると前向きに語った。ただし、AIが人を自動的に優れたストーリーテラーに変えるわけではないとも指摘し、創作の核は希少な人の才にあるという見立てを崩していない。AIは創造の置き換えではなく拡張だという整理がにじむ。
広がる適用領域—制作、検索、広告
現場での効率化は数字にも表れる。2025年7月18日にかけて報じられたところでは、アルゼンチンのSFシリーズ「El Eternauta（エテルナウタ）」で、ブエノスアイレスのビル崩落シーンを生成AIを用いて制作した。従来のVFX手法よりおよそ10倍の速さで完了し、予算面でも現実的になったという。制作のハードルが下がれば、これまで諦めていたカットが画面に載る余地が広がる。
利用者体験でもAI活用の余地は大きい。経営陣は、自然言語や音声で「80年代の暗めのサイコスリラーを」などと伝えて探せる検索体験の可能性に言及し、広告でも生成技術を用いた表現の幅を追う構えを示した。従来の推薦アルゴリズムに、会話的な探索や文脈理解が重なることで、選択肢の出会い方は変わっていくと映る。
期待と警戒が交差する現場
制作の自由度を押し広げる生成AIへの期待がある一方で、著作権や雇用、労使関係をめぐる警戒は根強い。ハリウッドでは2023年の労使交渉以降、AIの扱いが焦点になり、使い方を誤れば反発は再燃しかねない。NetflixもAIを制作の推進力と捉えるが、決算説明会での発言が示す通り、「人の物語」を中心に据える前提を明確にしつつ活用の線引きを探る段階にあるとみられる。
足元では、VFXやプリプロでの実利と、検索・広告での新機能という攻め筋が見える。他方で、視聴者の信頼やクリエイターの納得を得る運用ルールが伴わなければ、技術の進歩は体験の質に直結しない。AIが作品を軽くするのか、重みを増すのか。その答えは、次の四半期に届く具体の成果と、現場での対話の積み重ねにある。
