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廊下で足を止めた関芳弘氏が記者団に向き直り、先端分野の支援で毎年約1兆円の予算確保を目指すと語った。財源の多くは2026年度の本予算で積み上げ、今年度の補正は絞る説明である。ここ数年、主に補正で手当てしてきた資金循環を見直し、民間の投資計画に合わせて息の長い支援へ軸足を移す狙いがにじんだ。2025年11月6日の発言だ。
狙いは安定支援と予見性の確保
当初計上での継続的な枠取りは、研究から量産まで時間軸の長い事業に予見性を与える。費用が年度をまたぎやすい設備投資や人材育成は、年度末の補正頼みだとタイミングがずれやすい。年次の頭から資金の筋道が見えることで、サプライヤーとの契約や人材採用を前倒ししやすくなるという指摘もある。
政府は2024年に先端分野の公的支援フレームを示し、複数年にわたる大規模投資の呼び水を掲げた。党側の今回の方針は、この枠組みの実装度を高める動きと位置づけられる。国の関与が長期に及ぶことで、装置や材料の内製化を含む広い裾野に波及が及ぶ可能性がある。
他方で、年初からの厚い積み上げは一般歳出と競合する。教育や社会保障、災害対応といった優先課題との配分調整は避けられない。今回の考え方は、政権と与党の間で制度設計を詰める起点であり、産業政策の持続性と財政規律の両立をどう描くかが問われる。
補正中心からの転換が意味するもの
ここ数年は年度途中の経済対策に合わせ、関連基金の積み増しや個別案件の支援が補正で厚く積まれてきた。足元でも研究・量産の双方で大型の手当てが続き、工場新設や装置導入が加速したのは事実だ。今回の方針は、そうした即効性を重視した運用から、年初に柱を据えるやり方への重心移動を示す。
当初分での厚みは、国会審議の初期段階から透明性の高い議論を促しやすい。制度や要件の明確化が早まり、企業側の計画に反映しやすくなる。結果として交付や審査の平準化が進めば、年度末の駆け込みを抑え、実行段階の運用負荷も軽くなると見られる。
一方で、臨機応変な上積みがしにくくなる懸念もある。市況や技術動向の変化に合わせ、途中での柔軟な対応余地をどう残すかが鍵だ。新法や特別会計の枠組みを活用しつつ、当初分と機動的な措置の役割分担を整理することが、今回の方針を実効性のあるものにする条件になる。
現場の期待と慎重論のあわい
装置や材料の企業には、年明けから案件を走らせやすくなる期待が広がる。受注や採用の計画が立ちやすくなれば、国内拠点の増強や再投資の呼び水にもなりうる。教育機関との連携で人材パイプラインを整え、設計から製造、運用まで一体の実装力を底上げできれば効果は厚くなる。
一方で、巨額の公的負担に対する説明責任はより重くなる。採択の基準、成果の測定、撤退や見直しの条件など、ルールの明確化が欠かせない。資金の集中と分散の度合い、国内調達比率の扱い、環境負荷への配慮といった論点も、制度の信頼を左右する。
年末に向けて予算編成のヤマ場を迎える。与党内の調整と政府側の制度設計がかみ合えば、今回の方針は現場の動きへとつながる。取材を終えて議員会館の廊下が静けさを取り戻すなか、足元の一歩と長い視線の両方を求める声だけは、しばらく残響のように続いていた。
