ポルトガル政府、改正移民法を承認し在留手続き厳格化

ポルトガル政府は2025年9月30日、右派と極右の支持を得て、入国管理を厳格化する改正移民法を承認した。家族呼び寄せの要件や就労関連の在留手続きが引き締められ、制度依存の拡大に歯止めをかける狙いだ。政治対立の焦点だった条項の再設計を経て、移民政策の転換点が明確になったと言える。

政府が打ち出した主な変更点

政府は家族呼び寄せの適用条件を見直し、移民がこの権利を行使できるのは、少なくとも2年間の合法的居住を経た後とした。期間要件は一律ではなく、法律上の婚姻関係にあるカップルには短縮の例外が設けられ、未成年の子どもについては期間要件が免除される構造だ。制度の乱用を抑えつつ、家族の結びつきに配慮する折衷案である。

労働市場への入口も狭まる。求職ビザは高度な技能を持つ人材に限定され、入国後に就労先を探すための幅広い「求職」枠は事実上閉じられる。人手不足分野のニーズは残るが、受け入れ側にとっては選別の精度が上がる半面、移民にとって参入のハードルは高くなる。

不法滞在への対応も強化される。昨年7月に議会で可決された一連の措置には、取り締まりと強制送還を担う新たな警察部隊の設置が含まれており、今回の改正はその運用枠組みを補強する位置づけだ。国境管理と国内統合の線引きを、執行体制の側からも明確にする狙いがうかがえる。

政治の綱引きと「やり直し」の経緯

この法案は昨年7月に可決されたが、家族呼び寄せ条項をめぐる違憲判断を理由に、マルセロ・レベロデソウザ大統領が拒否権を行使した経緯がある。政府は憲法裁判所の指摘を踏まえて条文を修正し、再び議場に戻した。対立の根にあった権利制限の幅と手続きの適正が、再設計の焦点だった。

内外の視線が注がれたのは連立外の票読みである。保守系与党は治安と統合の両立を掲げ、極右はさらなる締め付けを求めて圧力を強めた。結果として、右派と極右の賛同が再提出の後押しとなり、政府は舵を切った。多数派形成の実利が、制度設計の線引きに色濃く反映された形だ。

承認後の会見で、政府報道官のアントニオ・レイタオ・アマロ氏は「無責任な移民の時代は終わった」と述べ、「人道的な社会統合のために移民の流入を管理・規制する」と強調した。強い言葉の背景には、制度の隙間を埋めつつ保護すべき権利を残すという政治的メッセージがある。発言は、今後の下位規則づくりにも影響を及ぼすだろう。

社会への波及と現場の視点

在留外国人の増加は、この転換の重要な背景だ。2024年末時点で在留外国人数は150万人を超え、総人口約1040万人の約15%に達したとの統計がある。2017年からの増加幅は大きく、労働・住居・教育など受け皿の整備が追いつかない地域の負担感が政策議論を後押しした。

影響はコミュニティごとに異なる。最大の在留者グループであるブラジル人は、観光での短期入国から在留資格を就労や永住へ転換し、正規化してきたルートの見直しに直面する見通しだ。例外規定は残るが、一般的な変更は難しくなり、企業の採用計画や家族計画にも調整が迫られる。

一方で、制度の厳格化は受け入れ体制の質を問う。家族呼び寄せの2年要件は、統合支援の計画性を高める意図を持つが、現時点で確認されている範囲では、婚姻関係や未成年に対する例外がどの程度機能するかは運用次第だ。就労面の選別強化も、欠員が目立つ現場での人材確保とどう折り合うかが試金石となる。

何が次の論点になるのか

今回の改正は、権利と統制の境界線を引き直す試みであると同時に、統合政策の持続性を問う出発点でもある。統計が示す増加傾向は続く可能性が高く、教育や医療といった基礎サービスの拡充が欠かせない。政府が掲げる「管理された移民」を実体化するには、受け入れ後の社会投資が不可欠だ。

政治面では、右派と極右の協調が今後の制度詳細に与える影響が焦点になる。強制送還の執行力をどう担保するか、家族の尊厳をどう守るか、相反する価値の調停は容易ではない。運用の透明性と司法的な検証可能性を高める枠組みづくりが、信頼の土台になる。

移民政策は、国境管理だけでなく、労働市場と地域社会の設計図でもある。今回の選択がもたらす効果は即時には見えにくい。だからこそ、数値の追跡と現場の声の可視化を積み重ね、修正可能性を担保することが重要だ。柔軟さと説明責任が、転換期の羅針盤になる。