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東京地裁に訴えが提出された。埼玉の私立聖望学園高野球部に所属していた男性が、先輩部員から飲酒を強要されたいじめで精神的苦痛を受けたとして、学校法人などに損害賠償を求めたという。強豪校の部室で何が起き、学校はどう向き合うのか。法廷で部活動の境界が問われる。
訴えが示す部室の重さ
原告側の主張では、部活動の場で複数の先輩から繰り返し飲酒を迫られ、拒めば叱責や孤立を招く空気があったという。未成年である立場を自覚しながらも、逃れがたい圧力にさらされ、体調不良や不安症状が長く続いたと訴えている。
訴状では、学校法人と監督者に対し、いじめ防止や危険回避の体制を整えるべき安全配慮義務があったのに、適切な監督や指導が行われなかったと主張する。部内の規律や相談窓口の運用、問題把握後の対応の遅れも、損害の一因だと位置づけた。
求めるのは慰謝料などの支払いと再発防止の措置だ。原告側は、被害の範囲を示す診断書ややり取りの記録を証拠として提出し、被告側の認否を待つ段階に入った。訴えが公になったのは2025年11月6日で、今後は期日指定を経て主張立証が進む見通しである。
学校と野球部の歩み
聖望学園は、甲子園出場の経験を重ねてきた野球強豪校として知られる。春夏通算で5回の出場歴があり、地域の期待を背に戦ってきた。勝利のために日々の鍛錬を重ねる一方で、未成年が集う部活動だからこそ、大人の目と仕組みが欠かせない。
飲酒の強要は、刑事責任や民事責任に直結しうる行為であり、学校の内外を問わず許されない。指導者の監督体制、寮や遠征でのルール設計、相談のしやすさ、第三者の関与など、リスクを下げる工夫は積み重ねでしか機能しない。競争の熱量と安全の仕組みは両立させたいところだ。
今回の提訴に対する学校法人や野球部の見解は、現時点で確認されていない。取材の呼びかけに応じて説明の場が設けられれば、事実経過や内部のチェック体制について明らかになるだろう。少なくとも、部の文化や規範を見直す契機になりうる。
法廷で問われる線引き
学校と生徒の関係をめぐる法廷では、処分の重さや対応の適否が争われることが多い。別の訴訟では、飲酒を理由とした退学勧告が重すぎると判断され、賠償を命じた東京地裁の判決もある。今回も、安全配慮義務や指導監督の線引きが審理の焦点になりそうだ。
裁判は、当事者にとって時間を要する過程である。主張や証拠のぶつかり合いと並行して、和解での再発防止策づくりが模索される場面もありうる。競技の成果や進路の不安と、被害の回復が同じテーブルに載る現実は、学校スポーツの現在地を映している。
グラウンドでは今日も掛け声が交わされ、ボールは確かに受け止められている。静かな日常の向こうで、法廷の議論は始まったばかりだ。判決の文字だけでは測れない重さが、当事者の間に静かに積もっていく。
