本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]
砂塵が舞う甘粛省民勤の施設で、白衣の研究者が高温の配管に目を凝らしていた。中国科学院が牽引するトリウム溶融塩実験炉が、トリウムからウランへの核燃料変換に成功したのだ。海水に頼らず内陸で運転できる第四世代炉の実証が一歩進み、原子力の地理と選択肢を広げる兆しが見えた出来事である。
ゴビに立つ小さな炉が示した「最初の証拠」
中国科学院上海応用物理研究所が主導する熱出力2MWの実験炉は、甘粛省武威市民勤県に建つ。2023年10月11日に初臨界、2024年6月17日に満出力運転を達成し、同年10月に世界で初めて溶融塩炉での加トリウム運転に踏み切った。2025年11月1日には、トリウムからウランへの燃料変換を確認し、運転後の実験データを取得したと公表した。現時点で確認されている範囲では、運転中にトリウム燃料を装荷した唯一の溶融塩炉と位置づけられている。
構内には、液体燃料が循環する配管と熱交換機が張り巡らされる。冷却材は高温の溶融塩で、巨大な圧力容器や大量の冷却水を前提としない。常圧運転が基本で、地下設置や多エネルギー連携を視野に入れた設計思想がうかがえる。2025年10月24日に施設内で燃料塩サンプルが採取された写真も公開され、実験炉が段階的にデータを積み上げている様子が浮かぶ。
仕組みと難所、そして中国の積み上げ
トリウム自体は核分裂しないが、中性子を捕獲してU-233へ転換し、これを連鎖反応に用いるのが要諦である。液体燃料の塩に核種が溶け込み、反応度や化学状態を精緻に制御する必要がある。中国は2011年の先導プロジェクト立ち上げ以降、材料、機器、化学処理、計装の課題を束ね、国産の要素技術を積み上げてきたと説明している。今回の変換成功は、トリウム資源活用の技術的実現性を示す「初期の証拠」と映る。
一方で、歩みはまだ実験段階にある。熱出力2MW級は研究用としては大きいが、商用電源としては小さい。中国側は2035年までに100MW級の示範プロジェクトを掲げるが、長期運転での材料健全性、燃料塩の化学管理、核物質の計量管理や規制枠組みなど、詰める論点は残るとみられる。西側で放棄されたという単純化は当たらず、米国では1960年代にオークリッジ国立研究所が溶融塩実験炉を運転し、U-233でも稼働した歴史がある。ただし産業化へ至らず、各国の優先順位が別の路線へ移った経緯がある。
次段階の研究炉への布石
溶融塩炉の利点は、内陸でも水需要に縛られにくい点にある。冷却水確保が難しい地域や、再エネの不安定さを補う高温熱源として、系統の柔軟性を高める役回りが期待される。高温の熱は水素製造や化学プロセスにも接続しやすい。今回の成果は、原子力の立地と用途の地図を描き直す可能性を示唆する。発電の実利に直結するまでには距離があるが、砂漠の小炉がもたらしたデータは、次段階の研究炉、示範炉へ橋を架けるだろう。
同時に、社会の受容と国際的なガバナンスも試される。廃棄物特性や核拡散抵抗性、事故時のふるまい、運転と化学処理の一体運用など、第四世代炉に固有の論点を可視化し、透明なデータで検証を重ねる姿勢が欠かせない。海沿いの巨大設備とは異なる原子力のかたちが現れつつある今、電源多様化の一手として評価されるのか、あるいは地域のエネルギーミックスに静かに溶け込むのか。ゴビの風が、その行方を静かに見守っている。
