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観光バスから人が降りると、向かう先は展示棟ではなくトイレだったこともあったという。石川県白山市の吉野工芸の里に1990年ごろ完成し、「1億円のトイレ」と呼ばれた公衆トイレが、老朽化と敷地全体の改修に合わせて取り壊されることになった。バブル期の記憶を映してきた建物が、静かに役目を終えようとしている。
話題を集めた豪華トイレとバブルの記憶
トイレがある吉野工芸の里は、白山麓の自然の中で工芸作家の工房や体験施設が集まる文化拠点だ。その一角に整備された公衆トイレは、金沢工業大学名誉教授で建築家の水野一郎氏が設計し、当時としては新しかったユニット形式を採用した。各ブースごとに内装や便器の形が異なり、ギャラリーのように楽しめる造りだったという。
建設費には、竹下登内閣のふるさと創生事業で旧吉野谷村に配分された1億円が充てられた。ふるさと創生事業は1988〜1989年に全国の自治体へ一律1億円を配った政策で、使い道の自由度の高さから金塊の展示やモニュメント建設など多様な事業を生んだとされる。吉野工芸の里のトイレもその一例で、自動ドアや冷暖房完備のぜいたくさが評判となり、観光バスがわざわざ立ち寄るほどの名所になった。
老朽化した設備と利用者の声、新たなトイレへ
しかし完成から30年以上が過ぎ、設備の疲れは隠せなくなった。特に空調の故障が目立つようになり、快適さを売りにしてきたはずの室内環境を保つには、修理費や電気代など維持費の負担が大きくなっていた。当初導入された外国製の便器や機器は、故障時に部品調達や技術面のハードルが高く、改修のたびに国内製品への交換が進んでいったという。
白山市によれば、このトイレはかつて斬新さで注目を集めた一方、近年は利用者や管理者から更新を望む声が相次いでいたという。豪華な設備よりも清掃しやすく故障しにくい施設を求める意見が増え、市は吉野工芸の里のリニューアル計画に合わせてトイレ棟の撤去を決断した。敷地内には新たなトイレが整備される予定で、今後は工芸の里を訪れる人の日常的な使い勝手が優先されていきそうだ。
バブルの熱気を映した「1億円のトイレ」は姿を消すが、工芸の里には今も多くの作家と来訪者が集う。次のトイレは、派手さよりも使いやすさで、この場所の時間を静かに支える存在になっていくだろう。
