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シャッターの前で待っていた女性の脇を、男の影がすり抜けた。2025年11月16日 10:30ごろ、東京・港区赤坂のビル地下にあるライブハウス前で、出演予定だった40代の女性が刃物で刺され重傷を負った。男は黒い帽子をかぶり現場から逃走。警視庁は殺人未遂の疑いで行方を追っている。
開場前の数分に起きたこと
通報が入ったのは2025年11月16日 10:30ごろ。場所は赤坂の雑居ビルの地下1階、ライブハウスの出入口の前だった。女性は出演のために現場へ到着し、ドアが開くのを1人で待っていたとみられる。人の往来がまだ少ない時間帯で、周囲の視線が途切れた一瞬を狙った犯行のように映る。
警視庁によると、女性は左の脇腹と手のひら付近を刺され、救急搬送時には意識があった。建物の地下という構造上、路上からは見通しが利きにくい。ライブハウスは小規模な音楽イベントの会場で、開場前はスタッフや出演者が順番に到着し、鍵の解錠や機材確認が続く時間帯である。
捜査関係者の説明では、女性は面識のない男から突然襲われた可能性が高い。出演直前の“待ち時間”は心の準備を整える静かな工程だが、この日はその静けさが犯行に利用された。現場検証は出入口周辺の血痕や刃物の痕跡、搬送動線を中心に丁寧に進められている。
逃走の手がかり
男は黒い帽子をかぶり、犯行後に現場から走り去った。周辺の防犯カメラの解析で、自転車に乗り換えて青山方面へ逃走した可能性が浮かんでいるという。雑踏に紛れやすい色味の服装と機動力の高い移動手段の組み合わせは、初動での追跡を難しくする。
警視庁は殺人未遂容疑で捜査を進め、映像の時系列をつなぎ合わせて足取りを追っている。加えて、乗り捨てられた自転車の有無や、周辺道路の交通系カメラ、商店のレシート時刻など“周縁の記録”も検証対象になる。こうした断片は、犯行の準備性や逃走経路の特定に直結する。
女性の容体は搬送後に悪化し、医療機関で治療が続いている。現時点で予断を許さないとされ、侵襲の深さや出血量の評価が続く。捜査側は被害者の回復を待ちながら供述の裏取りを進める一方、現場周辺で同様の不審者情報がないかの聴取を広げ、犯行の動機と関係性の有無を探っている。
静かな朝と都市の盲点
ライブ会場の朝は、準備のために人が少しずつ集まる。開場前の数分から十数分は、出入口に1人だけが立つこともある。人目が薄く、共同住宅やオフィスが混在する都心部では、階段や踊り場、通気口の影が死角になりやすい。今回の現場条件は、都市に潜むこうした“盲点”をあらわにした。
音楽の現場は、外部からの来訪が多い場所でもある。合鍵の受け渡し、搬入の待ち合わせ、喫煙スペースへの出入りなど、日常の動線が外部と交わる場面は少なくない。鍵が開くまでの待機は当たり前の作業だが、その短い時間に周囲の視線が届く配置になっているか、確認の仕組みが求められる。
事件は、営業再開の準備が進む静かな時間を直撃した。現場で交わされるはずだった挨拶や点呼は中断され、代わりに規制線が張られた。捜査と治療の行方を見守りつつ、日々の段取りのなかにある隙をどう埋めるか。都会の朝に残った足音が、しばらく記憶に留まりそうだ。
