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地下へ続く階段の前で、シャッターが開くのを待っていた女性が突然襲われた。2025年11月16日午前、東京・赤坂の雑居ビル地下1階でライブ出演を控えていた40代女性が刃物で刺され重傷を負った事件で、発生から7日後の11月22日未明、警視庁は陸上自衛隊朝霞駐屯地に勤務する大津陽一郎容疑者（43）を殺人未遂容疑で逮捕した。捜査員が行き交うビルの前には、静かな日常と暴力の痕跡が同居している。
年1回の舞台が襲撃の場に 長年の出演歴と2人の関係
被害に遭った女性は会社員で、このライブハウスには約10年前から年に1度ほど出演してきたとされる。事件当日も別の知人男性とビル近くまで向かい、その後1人で地下へ降り、公演の準備が始まるのを待っていたという。左脇腹と左手の傷は内臓に達するほど深く重いものだったが、命の危険は免れたとされ、いまも治療が続いている。日常の延長のような「いつもの場所」が、一瞬で血のにおいを帯びた。
女性は継続的に同じ会場に出演していたため、出演日程は周囲に知られやすい状況にあった。捜査関係者によると、逮捕された大津容疑者と女性は知人同士とされ、彼は任意の聴取に「面倒は起きていない」といった趣旨の説明をしていたという。一方で、警視庁は女性の長年の出演歴や当日の動きから、日程を把握した人物による待ち伏せの可能性も視野に入れ、2人の接点や交友の経緯を慎重に洗い直している。
自転車で20km、変装と防犯カメラ 浮かび上がる計画性
防犯カメラの映像からは、事件の数時間前からの動きが少しずつつながってきた。16日午前6時半ごろ、大津容疑者とみられる人物が勤務先の駐屯地を自転車で出発し、およそ20km離れた赤坂方面へ向かう姿が確認されたという。午前8時ごろからは現場周辺を歩き回り、ビルの出入りを観察する様子が記録されていた。女性が地下に降りた直後にその人物もビル内へ入り、約30秒後には外へ飛び出して逃走したとされる。
映像では、犯行前に持参した靴へ履き替え、靴カバーや手袋を装着する場面も捉えられていたという。逃走の途中では上着や靴を別のものに替え、青山や新宿区内を経て練馬区方面へ向かう自転車の軌跡が、複数のカメラの「リレー」で追跡された。直線距離で約17kmの経路が浮かび上がり、警視庁は21日夜に自宅を捜索して同様の自転車を押収した。大津容疑者は「当日は朝から昼まで職場にいた」と説明し、関与を否定しているが、捜査当局は周到な準備があったとみて裏付け捜査を続ける。陸上自衛隊第1施設大隊の隊長は、被害者の回復を願うとした上で、警察の捜査に全面協力し事実に基づき厳正に対応するとコメントしている。
音楽イベントの幕が上がるはずだった地下フロアには、今もしばらく静かな時間が流れている。防犯カメラが示す細かな足取りと、当事者たちの証言を丁寧に重ね合わせながら、捜査は女性が再び舞台に立てる日常を取り戻すための一歩を探っている。
