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薄暗い展示ホールに光が走り、規則正しく並ぶラックが静かに唸りを上げる。発表の舞台はラスベガスのイベント会場だった。アドバンスト・マイクロ・デバイセズとオラクルは2025年10月14日、2026年7〜9月に次世代GPU「MI450」を5万基導入すると明らかにした。AI計算力の争奪線で、NVIDIA一強に挑む布陣が本格始動する場面が浮かぶ。
動き出す「5万基」計画
両社の発表によれば、オラクルは2026年7〜9月から「MI450」シリーズGPUを5万基配備し、一般の顧客が利用できるAIスーパー・クラスターを提供する最初のハイパースケーラーになると示した。会場はラスベガス、共同発表の地はカリフォルニアの拠点で、空気は次の拡張に向けてざわついていた。計画は公開クラウドの枠内で進み、顧客の学習や推論の需要を受け止めると映る。
発表では、初期導入に続き2027年以降も拡張するとしている。既存の供給ラインとして、2024年に投入したMI300X搭載形状に続き、MI355X搭載のコンピュートも順次一般提供に移ると説明した。オラクルのスーパー・クラスターは理論上13万超のGPUまで拡張可能とされ、MI450の立ち上がりを補完する布陣が整いつつあるとみられる。需要側の焦燥感に、供給側の拡張計画が追いつく構図だ。
一方で、現時点で確認されている範囲では、配備の完了時期や地理的な配置は明示されていない。AMDの総供給量に占めるオラクル向けの比率や価格条件も非開示のままだ。将来見通しに基づく要素が多く、部材や電力の確保など外部要因で変更の可能性があることも併せて示されている。期待と不確実性が同居する発表である。
新ラック設計が映すねらい
今回の中核は、AMDが設計する「Helios」ラックだ。液冷を前提に72GPUを高密度に収め、垂直統合で最適化したと位置づける。AI向け巨大モデルの学習では、性能だけでなく冷却や電力効率が律速になる。ラック単位で伝送と電力を整え、スケール時のボトルネックを抑える狙いが透ける。クラスターの地ならしをラックで済ませ、構築のスピードを稼ぐ発想である。
計算の頭脳には次世代「EPYC（開発名Venice）」が据えられ、ネットワークは次世代「Pensando（開発名Vulcano）」が担う。各GPUには最大800GbpsのAI-NICを最大3基まで搭載でき、ラック間はEthernet系のオープン規格に沿って広がる。ラック内のスケールアップはUALoE、スケールアウトはUEC整合のEthernetで受け止め、DPUで仮想化やセキュリティも押さえる設計だ。大規模訓練の通信面での詰まりをほぐす工夫が目に入る。
GPU自体も大容量が前提になる。MI450はHBM4を最大432GB、メモリ帯域20TB/秒をうたい、従来世代より約5割大きいモデルをメモリ内に収めて訓練・推論できるとする。ソフトはオープンなROCmで支え、移行の障壁を下げる設計が際立つ。加えて、オラクルはMI355X搭載の計算形状をスーパー・クラスターに並べ、理論上131,072GPUまで積み上げられるという。実装の自由度と拡張の地力がにじむ。
計算力競争の地図を塗り替えるか
生成AIのモデルは急速に大型化し、既存クラスターの限界を越えつつある。両社は、価格性能とオープン性を強調しながら、巨大学習の主戦場に食い込む算段だ。公開利用可能なスーパー・クラスターを先行投入するという宣言は、計算資源の「待ち行列」を短くする挑戦とも映る。顧客の実験速度が上がれば、モデルの更新頻度も上がる。時間の奪い合いが次の競争軸になっている。
市場全体を見渡せば、AIインフラ拡充の大型投資は相次いでいる。巨大テックに限らず、研究機関やスタートアップまでが新拠点や電力の確保に走る状況だ。特定のベンダーに偏らないマルチ構成を模索する動きも広がっており、AMDとオラクルの組み合わせはその選択肢を厚くする。NVIDIAが築いた支配的地位に対し、代替経路を示す意味合いは小さくない。
他方で、配備先の地域や電源、通信部材の供給余力など、鍵となる前提条件はなお見えにくい。完成形の規模や運用の中身は、電力網やサプライチェーンの事情に左右される可能性がある。両社は将来の見通しに関わる記述であることを明確にしており、節目ごとに上方・下方の調整が入り得る。とはいえ、公開クラスタの提供開始を掲げた意義は重く、顧客の「選べる計算力」を広げる一歩になると映る。
