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夜の演習場で、薄く発光する地図と識別マーカーがバイザーに浮かぶ。オキュラスVRの創業者であり防衛テック企業アンドゥリルを率いるパルマー・ラッキーが、AI搭載の複合現実システム「EagleEye」を公表した。ヘルメットに直接組み込むHUDで、作戦理解と判断の速度を引き上げる狙いだ。米陸軍が混合現実装備の仕切り直しを進める最中に出た一手で、ヘルメットとソフトを束ねる再設計の提案と映る。
ヘルメットに宿る「AIの相棒」
ラッキーは、兵士に新しい道具を配るというより、AIを組み込んだ相棒を与えるという発想を強調している。ディスプレイに直接重ねる情報は、現場の視界から手を離さずに意思決定へつながる。過去に夢想された“相棒AI”を、装着型コンピュータとして手の届く場所へ降ろす設計思想が前面に出たといえる。
EagleEyeはヘルメット、バイザー、メガネの構成を含むモジュール式の「ファミリー」であると社は説明している。地図オーバーレイや仲間の配置表示、ミッション更新などの情報を視野内へ統合し、指揮・統制の要素を頭部に集約することが柱だとみられる。一部報道によれば、センサ群と音響・通信の統合で周囲認識を拡張する試みも含む。
設計面では、従来の暗視装置に見られがちな前荷重の偏りを抑え、重量バランスを取る工夫を推す。戦闘員の重心と動線に合わせてセンサーを配置し、長時間装着での負担を軽減する狙いが浮かぶ。HUDは夜間や悪天候でも視界を阻害しにくい形状へ寄せ、装具としての信頼性を優先していると映る。
公開画像では、ヘルメット上部の突起が猫耳のようだと話題になった。効率的なアンテナや放熱、風切りの制御など実装上の意味があるのか、あるいは単なる遊び心なのかは現時点で公式説明が限られる。ただ、通信とセンサーを一体化する設計では形状に合理が宿る場面も多い。意匠と機能の交差点にある小さな謎が、プロトタイプならではの空気を添えている。
陸軍調達の流れとEagleEyeの立ち位置
背景には、陸軍の混合現実プログラム「IVAS」の体制変更がある。2025年2月11日、マイクロソフトとアンドゥリルはIVASの次段階に向けた協業拡大を公表し、アンドゥリルが今後の開発や生産工程の主導を担う枠組みを示した。クラウドやAI基盤は継続し、兵士中心設計の改善を迅速に回す体制をうたっている。
同年7月18日には、陸軍が次世代指揮統制「NGC2」プロトタイプの契約をチーム・アンドゥリルへ与えたと発表した。装備やアプリ群を共通のデータ層で束ね、分散した情報をAIで統合する取り組みである。頭部装着のUIを情報ハブにするEagleEyeの方向性は、こうした指揮統制のアーキテクチャ再編と親和的だとみられる。
一方で、EagleEyeがIVASの単純な「リブランド」かといえば断定はできない。現時点で確認されている範囲では、アンドゥリルが自社のLatticeソフトと装着型ハードを束ねた新しい“ファミリー”を提示し、陸軍の既存・新規の取り組みに接続しうる選択肢を広げている段階と映る。金額やスケジュールの詳細は、今後の公式発表で詰められていく構図だろう。
また、ラッキーと旧知の関係にある大手の協力が話題を集めたが、その役割分担や供給網の具体は案件ごとに揺れが出やすい。報道は報道として位置づけ、契約名や性能仕様は公的発表に拠って確認したい。現場で使えるかどうかは、演習や実環境での試験で初めて輪郭が固まるためだ。
人間工学と信頼性、次の関門
IVASの改良過程では、人間工学や電力消費、低照度での視認性といった要素が繰り返し見直されてきた。最新の1.2系では低プロファイル化やカウンターウエイトの分散など、装着負荷を抑える方向に舵が切られている。EagleEyeも重心配置や視界の抜けを意識した造形を掲げ、長時間運用のしやすさで評価を取りにいく構えだとみられる。
ただ、ヘルメットは単体で完結しない。無線やセンサー、ドローンなど外部システムとの相互運用が前提になり、指揮統制のネットワーク側も含めた「遅延」と「帯域」の設計が鍵を握る。NGC2のようにデータ層から組み直す取り組みと歩調を合わせられるかが、アイウェア側の体験を左右する。ここで生きるのが、ソフト主導で磨かれてきたアンドゥリルの強みである。
現場の兵士にとって重要なのは、昼夜・寒暖・雨雪を問わず安定して動き、目や頸に負担が少ないことだ。さらに、味方識別の誤りや過剰なアラートを抑え、必要な局面でだけ静かに背中を押す“相棒”であることが求められる。EagleEyeの公開はスタートにすぎない。試験と改良の往復の先に、ようやく実戦で通用する標準装備の輪郭が見えてくるはずだ。
