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オンライン会議の招集メールが営業担当者の画面に並んだのは、ここ数週間のことだ。企業や学校、政府機関を相手にしてきたAppleの営業チームに、組織再編の通告が静かに伝えられた。今回の見直しで数十人規模のポストが削減されることになり、長く安定雇用を続けてきた同社としては珍しいレイオフとなる。現場には驚きと戸惑いが広がった。
営業現場を直撃した“異例”の削減
削減の対象になったのは、大企業や大学、官公庁の窓口を担うアカウントマネジャーに加え、法人顧客向けの会議や製品デモを行うブリーフィングセンターのスタッフなどだ。関係者によれば、通知は一度ではなく複数回に分けて行われ、営業組織全体の幅広いチームに及んだという。社内では正確な人数は共有されておらず、自分のチームがどこまで影響を受けるのか読み切れない社員もいたとされる。
Appleはこれまで、他の大手IT企業が大規模リストラに踏み切るなかでも、全社的な人員削減を避けてきた経緯がある。2024年に自動運転車プロジェクトの終了に伴い約600人が職を失った例はあるが、対象は特定事業に限られていた。今回のように営業部門全体にまたがる削減は異例であり、影響を受けた人たちの間では「まさか自分たちが」という空気があったという。一方で、同社の従業員数は2025年9月末で約16万6000人とされ、規模から見れば一部にとどまる動きでもある。
好調決算の影で進む営業組織の再編
今回の動きについて、Apple広報は営業部門の再編を進めていることを認め、「より多くの顧客とつながるため、営業チームの一部職種を見直している」と説明している。採用活動自体は続けており、影響を受けた社員には社内の別ポジションに応募する道も用意されたという。表向きには「効率化」と「成長のための配置転換」を強調するコメントだが、背景にはオンライン販売やパートナー企業経由の販路が拡大し、従来型の対面営業の役割が変わりつつある現実があると見られる。
業績の数字だけを見れば、今回の削減は景気悪化の防衛策というより、事業構造を切り替えるための一手に近い。Appleは2025年9月期第4四半期に売上高約1025億ドルを計上し、前年同期比8％増と高い伸びを示したうえで、12月期はさらに10〜12％の増収を見込んでいる。生成AI向けインフラなどへの投資を拡大する方針も示しており、人件費を含めたリソース配分の見直しが進んでいると考えられる。同じ時期には他のテック企業でも人員削減が相次いでおり、成長企業であっても「どこに人を置くか」がより厳しく問われる局面に入っている。
ブリーフィングセンターの照明が落とされ、来訪者を迎えてきたディスプレイだけが静かに光っている。そこで積み重ねられてきた商談やデモの記憶とは対照的に、組織図の線はあっさりと引き直される。その変化の速さこそが、いまのテクノロジー企業で働く人々の職場をかたち作っている。
