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契約書に互いの署名が走り、試験セルのグラフが立ち上がる。旭化成は2025年11月4日、独EASバッテリーズと超イオン伝導性電解液技術のライセンス契約を締結した。2026年3月に発売される円筒型の新型リチウムイオン電池(LiB)に同技術が採用される。出力の底上げと発熱抑制を両立し、無形資産を起点にした事業づくりを加速させる一歩である。
出力と寿命、数字が示す手応え
両社が共同開発したのは、正極にリン酸鉄(LFP)を用いた容量22Ahの円筒型セルだ。超イオン伝導性電解液の採用により内部抵抗を抑え、同容量の従来電解液セルと比べて約6割の出力向上を実現した。2秒間の高負荷放電でもパワーが落ち込みにくく、瞬発力が求められる場面に照準を合わせている。
継続出力や短時間のパルス放電の指標では、重量当たりの数字が明確に伸びた。急加速や重機の立ち上げといった瞬時の需要に応える設計で、放熱の少なさも動作安定性に効く。発熱が抑えられるほど効率は高まり、搭載数や冷却負荷の抑制につながる構図だ。
寿命面でも、所定条件下での充放電を繰り返して容量維持率の低下を測ると、長期の利用に耐える結果を示している。高出力と長寿命の両立は一般に難題だが、電解液側の改良でセル内部の負担分布が整い、劣化要因の抑制に寄与したと読み取れる。
電解液の鍵、超イオン伝導性とは
今回の要は、溶媒にアセトニトリルを含む独自の電解液だ。高いイオン伝導性により、低温時の出力低下と高温時の耐久低下というLiBの二つの弱点を同時に縮める。電極と電解液の界面を整える処方を組み合わせ、反応のムダを抑えた結果として、抵抗と発熱の低減が実現した。
LFPはコバルトやニッケルを使わない正極材料で、安全性と価格安定性に強みがある。一方で高出力域では電解液の性能がボトルネックになりやすい。今回の電解液はその壁を押し広げ、LFPの堅牢さを保ったまま加速応答や急速充放電の領域を拡張した。用途の幅が、素材と電解液の組み合わせで変わる好例である。
なおLiB(リチウムイオン電池)は二次電池の代表格で、電解液中のリチウムイオンが正極・負極間を往復する仕組みだ。イオンが速く、安定して動けるほど抵抗は下がる。超イオン伝導性の設計は、セル単体の性能だけでなく、パック全体の小型化やコスト最適化にも波及する。
ライセンス戦略が開く市場
契約は製品搭載にとどまらない。両社は自動車メーカーや電池メーカーに向け、技術のサブライセンス(再実施許諾)で展開していく方針だ。高出力セルが求められるモビリティや産業機械の領域は広く、複数の担い手に技術を開放することで、用途ごとの最適設計を素早く市場に届けられる。
旭化成は中期計画で「TBC(Technology-value Business Creation)」を掲げ、特許やノウハウなど無形資産の提供形態を柔軟に設計して収益化する。装置投資を抑えつつ、外部の製品化力と接続する発想だ。2025〜2027年度にライセンスを10件以上、2030年頃までに累積で100億円超の利益貢献を見込む目標も示している。
開発は独の研究支援プロジェクトの後押しも受け、産業実装の段階へ移った。高出力・低発熱という性格は、船舶や鉄道、建設機械といった厳しい現場でこそ効き目がある。セルの規格や制御の磨き込みは続くが、供給網の外側にある「知の資産」を動かす手つきに、今後の量産化のリアリティが宿る。
静かな装置音の向こうで、次の実装に向けた段取りが確かに進んでいる。