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各国旗が並ぶ会場でペンが走った。2025年10月28日、ASEANと中国が自由貿易協定の「3.0版」に調印した。税関手続きのデジタル化や新産業の規律を取り込む改定は、RCEPの枠組みとも呼応し、域内のサプライチェーンを太くしうる節目である。米中の通商摩擦が続く中、企業の選択肢を広げる装置としての機能も期待されると映る。
交渉の道のりと署名のタイミング
現時点で確認されている範囲では、この改定は2022年11月に首脳間の合意を受けて交渉が始まり、2024年9月にタイ・バンコクで第9ラウンドが開かれるなど、実務協議が加速してきた経緯がある。2025年3月には特別合同委員会が残る論点の処理と法的点検の早期完了で一致し、署名への地ならしが進んだとされる。こうした流れの延長線上で、28日の首脳会合の機会に署名式が実現した格好だ。
中国・ASEANのFTAは2010年に発効し、関税引き下げや原産地規則などを土台に、段階的に制度の磨き上げが行われてきた。今回の「3.0版」は、その延長ではなく、デジタルやグリーンといった新領域を大きく取り込む設計が掲げられている。包摂的で現代的、かつ包括的な協定像を目指すと双方が繰り返し示してきた点が象徴的である。
署名はゴールではない。各国が国内手続きや批准を進め、発効までの工程を詰める必要がある。最終テキストの公開や移行スケジュールの策定に加え、関税外の障壁やサービス分野の付属書など細部の運用が企業の使い勝手を左右する。実装の質が次の焦点となるとみられる。
広がる対象分野—デジタルから通関まで
3.0版の骨格として、デジタル経済やグリーン経済、産業・サプライチェーン協力が前面に出る。交渉の場では、データ関連の手続きやオンライン商取引の円滑化、低炭素移行を支える投資・技術協力などが議題に上ってきた。農業・医薬品といった既存分野の市場アクセス改善も意識され、モノの貿易だけでなく、サービスや規制協力まで視野が広がっている。
税関・貿易円滑化(CPTF)章の強化も要所だ。RCEPの規律をベースラインに、通関の透明性や予見可能性の向上、電子的手続きの拡充、相互承認の推進など、実務的なボトルネックを外す条項が盛り込まれる方向が示されてきた。紙からデータへと切り替わる現場の運用が進めば、リードタイム短縮やコスト削減の効果が広がる構図が浮かぶ。
協定の使い勝手は条文そのものよりも、各国の実装スピードと整合性に左右される。電子原産地証明の相互運用や、単一窓口の高度化、検査のリスクベース化など、企業が日々向き合う“摩擦”をどこまで減らせるか。3.0版は理念にとどまらず、現場での一体運用をどこまで前に進められるかが問われる局面に入ったといえる。
地域経済への波紋—緩衝材となる期待と現実
中国にとってASEANは最大の貿易相手であり、サプライチェーンの中核をなす市場である。ASEAN側にとっても、プラス3(日中韓)との往来は24年にかけて商流・投資ともに持ち直しが見られ、域内の結びつきが強まっている。関税だけでなく、サービスや投資を含む広い土台が厚みを増すほど、企業の回避経路は増え、リスク分散の余地は広がると映る。
一部の専門家は、RCEPや今回の3.0版が米関税ショックの緩衝材になり得るとみる。他方で、加盟国の利害が多様なため、規定の強度は他地域協定に比べて控えめになりがちだとの指摘も根強い。競争政策や国有企業、データ移転の扱いなど、踏み込みの度合いに差が出やすい領域で限界が意識される場面は残るだろう。
では企業は何を見るべきか。原産地累積の利便性、デジタル貿易の実務ルール、非関税措置の見直し、紛争解決の実効性といった具体点がカギである。制度が整っても使われなければ意味がない。28日の署名を起点に、域内での“使われ方”が数字となって現れるか。次の四半期から先、各国の実装と企業行動が試される。
