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朝の冷え込みが残る駅前で、張り詰めた見張りが続いていた。20日朝に男性を襲い民家へ入り込んだクマが、25日未明に箱わなで捕獲された。侵入から6日、住民は「やっと日常に戻れる」と胸をなで下ろした。市は緊急銃猟を見送り、わなでの収束を選んだ。都市近接の野生動物対応の難しさが浮かぶ。
緊張の6日間、駅前で何が起きていたか
現場はＪＲ湯沢駅の北東約250メートルの民家である。2025年10月20日 06:20頃、住人の男性（65）が玄関先でクマに襲われ、開いていた扉からそのまま家屋内へ侵入した。以後、警察と市職員が周辺を封鎖し、昼夜の警戒が続いた。家の中は相当荒らされ、暮らしの匂いに野生の気配が混じった光景が広がっていたとされる。
2025年10月25日 02:15、市の職員が箱わなに入ったクマを目視で確認した。07:15には箱わなごと軽トラックに積み、民家から運び出した。体長は約1メートル30のオス。危険性から駆除の判断が取られ、6日間続いた緊張がようやく切れたとみられる。駅前の静けさが戻る一方、住民の胸の内には余韻が残った。
隣家の男性（70）は「大きな音を出さないよう緊張して生活し、心が休まらなかった。ほっとしたが、まだ油断できない」と語った。駅にほど近い住宅街で起きた出来事は、扉一枚の向こうにある野生との境界の薄さを映す。安堵と警戒が同時に漂う朝であった。
なぜ銃ではなく箱わなだったのか
市は当初、市街地での猟銃使用を許可する緊急銃猟を検討した。ただ、銃弾がそれた際に受け止めるバックストップとなる地形や施設が現場に乏しく、周辺への二次被害の恐れが拭えなかった。このため実施は見送り、民家周辺に箱わな2基を設置して誘引し、現場常駐の体制で見守る方針へ切り替えた。安全を最優先した判断がにじむ。
箱わなは時間がかかる半面、狙いを限定でき、弾丸の飛翔リスクを避けられる。結果として長期化したが、夜間の動きが活発になる時間帯を読み、未明の確保に至った格好である。佐藤一夫市長は現場取材に「戸を閉めてくれたおかげで被害が拡大せずに済んだ。長引いてしまったことをおわびしたい」と述べ、市としての判断を説明した。
都市に近い場所での出没では、迅速さと安全確保の両立が常にせめぎ合う。今回は銃を排し、わなでの制圧を選んだ。住民の命を守るという一点で、現場条件に応じた最適解を探る作業が続いたと映る。今後の検証では、初動の封鎖や誘引設置の位置取りなど、細部の改善点も洗い出されるべきだろう。
相次いだ出没、朝の街で身を守る
25日には県内各地でも人身被害が相次いだ。秋田市河辺三内の県道では、2025年10月25日 06:10頃、ランニング中の会社員男性（51）が体長約50センチのクマに襲われ、顔などにけがを負った。続く 07:10頃、同市上新城保多野では60歳代男性が川沿いを歩行中に体長約1メートルのクマに背中を引っかかれ、軽傷を負った。いずれも通勤通学前の時間帯である。
宮城県大衡村大衡でも、2025年10月25日 06:10頃、60歳代女性が自宅玄関を出たところを体長約80センチのクマに襲われ、左腕にけがを負った。人の生活圏と隣り合わせの場で、早朝の短い時間に連続する被害が起きている。出没の波が市街地へ押し寄せる今、目の前の一歩に注意を向けるしかない局面が広がっている。
山際や河川沿いを動く際は単独を避け、早朝や夕暮れ時の行動を慎重にしたい。家屋の扉や窓を確実に閉め、生ごみや果樹を放置しない。音の出るものを携行し、異変を感じたら無理に追わず離れる。現時点で確認されている範囲では、周辺一帯での警戒態勢が続いている。日常を守る小さな行動が、次の被害を防ぐ鍵になる。
