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ベルリン中心部ミッテ区の公有地にあった慰安婦像「平和の像」が2025年10月17日朝、区の代執行により撤去された。前日の16日にベルリン＝ブランデンブルク上級行政裁判所が、像の存続を認めない判断を示したことが背景にある。長く続いた設置をめぐる攻防が、一つの節目を迎えたと映る。
静かな朝、像は運び去られた
ミッテ区が明らかにしたところでは、像はブレーマー通りの一角に設置されていたものを、同区の手配による代執行で撤去したという。撤去は2025年10月17日朝に実施され、像は現場から搬出された。通りを行き交う人々の足取りはいつも通りだが、立ち止まり振り返る視線に、静かな緊張が漂った。
区は、設置主体の市民団体が2025年9月28日までに自主撤去に応じなかったことを理由に、行政代執行の枠組みで対応したと説明した。許容期間の満了を経ても像が残されたため、区が責務を肩代わりするかたちで実施に踏み切った構図が浮かぶ。設置が日常に溶け込むほど長期化したからこそ、行政判断の重さがより際立った。
同区は、像をめぐる対立が続く一方で、武力紛争下の性暴力を社会が見つめ直す契機となった意義を強調している。撤去の判断を伝える文面にも、議論の継続を求める含意がにじむ。街の一角に置かれた像が生んだ対話は、場所を離れてもなお続くべきだという呼びかけが広がっている。
裁判所の判断と区のルール
法的には、2025年10月14日にベルリン行政裁判所が、設置団体に公道上の継続設置を認めない決定を出し、16日に上級行政裁判所がこれを不服申立て不能の形で維持した。区の方針が妥当と判断されたことで、撤去に向けた障害は取り払われたとみられる。決定の連鎖が短期間に固まったことで、現場の動きも一気に加速した。
判断の根底には、ミッテ区が定める公共空間のアート対応方針がある。公募を経ていない作品は、公共空間での展示期間を最大で一定年限に限るという考え方で、恣意を排し、すべての作品を等しく扱う狙いが示された。個別案件に左右されない透明性を求めた結論といえ、制度に立脚した線引きが確認された。
区は、像の移転先として現在地からおよそ100メートルの公開空間を提示したが、設置団体はこれを受け入れなかったと明かしている。歩み寄りの糸口が最後まで見いだせなかったことへの残念さをにじませつつ、区は撤去を告知したかたちだ。合意の難しさは、記憶の場所をどう扱うかという普遍的な課題の重さを映し出す。
残された問い
像の取り扱いは、現時点で確認されている範囲では詳細が示されていない。保管や返還の流れ、今後の展示の可能性など、関係者の協議に委ねられる部分が多い。撤去という行政措置は終着点ではなく、次の場所と形を探す出発点にもなり得ると映る。緊張の糸が切れた後に残るのは、対話をどう再構成するかという問いである。
同時に、公共空間での表現をどう運用するかというベルリンの課題も浮かぶ。公平性を担保する期限設定は運用の明確さを生む一方で、記憶の継承や市民の声をどこまで空間に刻むかという問いが残る。像が去った足元に、制度と記憶の接点を探る宿題が横たわっている。折り合いのつけ方は、地域社会の意思に委ねられている。
14日の判断、16日の確定、17日の撤去という短い連なりが、長い議論の終幕を告げたわけではない。像をめぐる意味や学びは、地図上の一点に縛られない。通り過ぎる人々の記憶の中に残る声を、これからどう受け止めていくのか。街の対話は静かに続いている。
