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秋の夕暮れ、バイエルン州エルディングの集落で通り雨のにおいが残るなか、迷彩服の影を見た住民が電話を取った。警察が駆けつけ、相対したのは訓練中の独連邦軍だった。空包と実弾が交錯し、兵士1人が顔をかすめる軽傷を負う異常事態。公道での実戦型訓練が広がる今、軍と警察の連携はどこでほつれたのかが問われている。
現場で何が起きたのか
2025年10月22日夕、エルディングの納屋近くで「武装した人物が潜んでいる」との通報が警察に入った。到着した警察官が確認に入ると、周辺で活動していたのは連邦軍の兵士たちだった。兵士側は訓練シナリオの続きと受け取り空包を発射し、警察は実弾で応射。流れ弾が兵士の顔をかすめ、軽傷が出たとされる。
兵士は警察官を訓練の「敵役」と誤認したとみられる。現場は演習場ではなく一般の道路と集落に近い一帯で、周囲の生活音と訓練の動きが交じり合う環境だった。結果として、空包の発砲音は地域の緊張を一気に高め、警察の判断を実戦対応へと傾けた構図が浮かぶ。
負傷した兵士はその後、医療機関で手当てを受けて帰宅したと伝えられている。幸い命に別状はないが、訓練中の「誤射・誤認」が実弾と接続した事実は重い。現場の判断が秒単位で分かれる状況で、誰がどの合図を受け取り、どこまでを訓練と見るのか。境界線の曖昧さが露呈したと言える。
連絡のすれ違い、どこで生じたか
現時点で確認されている範囲では、連邦軍側は訓練実施を事前に警察へ通知していたとされる。一方で、具体的な実施場所は一般向けには限定的にしか示されず、警察側には本格開始を10月23日からと受け取った向きがあったという。開始日の認識差と、詳細地点の共有不足が重なったと映る。
当日の訓練は、無人航空機による攻撃阻止や武装勢力の工作対応を想定し、約500人規模の兵士が参加する計画だったと報じられている。実戦性を高めるため、公道や集落を舞台とする「環境のリアル化」が重視された。だがその設計は、通報から初動出動までの民警側プロトコルと衝突しやすい。
さらに、現場の制服・装備は一般市民から見分けが難しい。兵士が「敵役」を演じる訓練では隠密行動も含まれるため、外形からの判別は一層困難になる。通報の文言、管制室での情報整理、現場指揮への伝達で、訓練と現実を峻別するキーワードがどこまで共有されていたかが焦点になるとみられる。
公道訓練の狙いと教訓
訓練は10月29日まで続く計画だという。都市近郊での不規則脅威に対応する力を磨く狙いは明確であり、欧州各地で進む「実戦的環境」志向の流れとも重なる。ただ、生活圏と訓練圏が重なるほど、住民通報と治安当局の初動は現実の脅威前提で立ち上がる。今回の誤認はその臨界点を示したとも言える。
今後は、詳細地点のタイムリーな共有、通信系統の冗長化、現場到着時の識別手順の徹底が要る。例えば、到着直後に双方向で「訓練識別コード」を交わす、携行表示を赤外・可視の二層で標準化する、周辺住民への情報提供の粒度を上げるなど、具体策は多い。実施主体と管轄警察の合同ブリーフィングも不可欠だ。
一部報道では、地元首長が「連携の不備は看過できない」と強く批判したとされ、警察は「市民への危険はなかった」と強調している。訓練の実効性と市民の安心は二者択一ではない。現実の脅威が複雑化するほど、双方の境界線を太く描き直す作業が求められているとみられる。
