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秋の北京で政策の歯車がまた一段とかみ合いはじめた。中国の国営通信は2025年10月24日、2026〜2030年を対象とする第15次5カ年発展計画に向けた会議が8月に開かれ、習近平国家主席が「戦略的イニシアチブをしっかりと握るべきだ」と強調したと伝えた。主要技術のブレークスルーを目指す方針にも触れ、内外の不確実性が増す局面で政策の舵をどこに切るかを示した格好である。
握るべきは「戦略的イニシアチブ」
会議は2025年8月に開かれたとされる。現時点で確認されている範囲では、習氏は不確実性が高まる環境下で「戦略的機会と課題が併存する」との認識を示し、主導権を保つ発想を前面に据えたとみられる。景気下振れ圧力や地政学、供給網の再編などが重なるなか、政策の優先順位を再定義する狙いが浮かぶ。
中国の五カ年計画は、政治・経済・社会の広範な分野を束ねる中長期設計として機能してきた。過去の発言でも、習氏は中長期計画が「発展の理念と方向を定め、政府と市場の役割をよりよく発揮させる」手段であると位置づけている。今回の「イニシアチブを握る」という表現は、その設計思想を対外環境の変化に合わせて強めるメッセージと映る。
一部報道によれば、指摘の背景には内需の弱さや不動産調整の長期化、米欧との技術・安全保障上の摩擦など複合要因があるとされる。国営通信は強いトーンで方針を示す一方、民間エコノミストの見立てには温度差もあり、成長と安定、構造改革の配分をどう設計するかが焦点として浮上している。
焦点は主要技術と産業競争力
習氏は主要技術でのブレークスルーを目指すべきだとも述べた。半導体、次世代通信、人工知能、バッテリー・新エネルギー、航空宇宙、新素材などの分野が想起される。過去数年、中国は「科技自立自強」を掲げ、国家プロジェクトや基金を通じて研究開発と産業化を押し上げてきた。第15次計画では、その選択と集中が一段と鮮明になる可能性が高い。
輸出管理や投資審査など外部制約が続くなか、サプライチェーンの国内完結度を引き上げつつ、国際連携の回路をどこまで広げられるかが鍵となる。国内では地方政府の投資配分、国有企業の資本政策、大学や研究機関の人材育成が連動する。実行段階では資金の選別とガバナンスが問われ、計画の掲げる目標をどう現場のインセンティブに落とし込むかが成果を左右する構図である。
同時に、消費拡大や社会保障整備、地域間の均衡といった「質の高い発展」の柱も欠かせない。技術重点と内需重視の両輪が噛み合わなければ、投資偏重の再来や過剰設備の累積を招くおそれがある。計画は研究開発支出やデジタル化、人への投資を軸に、民間部門の活力をどう引き出すかまで含めて描く必要があるとみられる。
計画づくりの段取りと波紋
五カ年計画は例年、党中央の会議で大枠が固まり、その後に国の正式文書として公表される流れがある。過去の経緯では、中長期計画は理念から目標、政策手段までを体系化し、社会全体の期待形成と政策協調を促してきた。今回の発言も、その延長線上で「長期と短期の整合を取り、主導権を失わない」という意図を鮮明にしたものと受け止められる。
日本企業にとっては、部材・装置の国産化や標準化の動き、データやサイバー関連の制度整備、政府調達の優先領域など、実務に効くシグナルが増えるだろう。現時点で確認されている範囲では、戦略産業の支援や地域クラスター形成が続く公算が大きい。供給網の再設計、共同研究の枠組み、リスク管理の体制を同時に見直すことが、次の五年を乗り切る前提になる。
一方で、内需の回復力や地方財政の制約はなお重い。計画が掲げる技術飛躍と雇用・所得の底上げを両立させるには、民間投資の呼び水となる制度改革が不可欠である。戦略的イニシアチブを握るという言葉が、管理強化の合図にとどまるのか、それとも市場のダイナミズムを引き出す意味合いまで含むのか。次の公式文書と具体策が試金石になる。
