中国大手航空、米のロシア上空禁止案撤回要求で航路に影響

中国の大手航空会社が2025年10月14日、米政権に対し、米国発着便でのロシア上空飛行を禁じる計画の撤回を求めた。米運輸省が示した案は、運航ルートの大幅な見直しを迫り、米中の航空競争と旅客の移動計画に連鎖的な影響を及ぼすおそれがある。政治と空の現実が、再び交差していると映る。

何が起きたのか

早朝のターミナル、掲示板のフライト番号が次々と切り替わるなか、上海や北京を拠点とする航空会社の担当者は静かに書簡をまとめたという。対象は米運輸省の新たな案で、米国発着の中国路線でロシア上空の飛行を禁じるという骨子だ。現時点で確認されている範囲では、最終決定には至っていないとみられる。

一部報道によれば、書簡に名を連ねた複数社は措置の撤回を求め、運航上の実害を列挙した。背景には、米航空会社がロシアの報復措置で同国上空を飛べない一方、中国系を含む一部のアジアの航空会社は飛行を続けているという非対称がある。公平性の担保をどう図るかが焦点に浮かぶ。

さらに米大手の一部は、対象を香港を拠点とする航空会社にも広げるべきだと主張したとされる。競争条件の均衡を唱える声と、国際ネットワーク維持を優先する声が交錯し、規制の線引きをめぐるせめぎ合いが強まっている構図だ。議論はワシントンとアジアの空で同時進行している。

路線と旅客への影響

書簡では、主要路線の飛行時間が2〜3時間延び、乗り継ぎ接続の喪失リスクが高まると指摘が並んだ。航路変更は偏西風や機材特性の影響を受け、余裕時間の設定や予備機・乗員の確保も不可欠になる。結果としてスケジュールの硬直化が進み、遅延の連鎖が広がりかねないとの懸念が滲む。

燃料消費の増加は避けづらく、長距離で顕著になる。北回りの遠回りや中東経由の選択は、運航コストや環境負荷の両面で重くのしかかる。航空各社が細心の計画で積み上げた到着波と出発波の均衡も崩れやすく、ハブ空港の処理能力に余裕がない時間帯ほど歪みが大きくなるとみられる。

一部報道では、11月1日から12月31日の繁忙期に少なくとも数千人規模の再予約が必要になるとの試算も示された。座席の置き換えには時間がかかり、無償振替や払い戻しの窓口は混雑する。旅程が長くなるほど体力的・金銭的負担は増し、ビジネス客も観光客も行き先の再考を迫られる局面が広がっている。

政治と空の交差点

発端は2022年初頭にさかのぼる。米国はロシアのウクライナ侵攻後、ロシア機の米国上空飛行を禁じた。これに対しロシアは米航空会社などの領空飛行を禁じ、米系はユーラシア横断の近道を失った。中国系など一部はロシア上空を使い続け、所要時間とコストで優位に立つ場面が生まれてきた経緯がある。

今回の案は、その非対称を規制で是正する狙いがあると映る。他方で、路線網は国家間の相互主義や空港スロット、保安上の配慮が複雑に絡み、単純な線引きでは別の歪みを生みやすい。現時点で確認されている範囲では、当局の最終判断は示されておらず、関係国の駆け引きは続く見通しだ。

空の規制は旅客の行き先を変え、企業のサプライチェーンを揺らす。もし禁止措置が広がれば、運賃や便数、貨物の運賃市況にも波が立つだろう。逆に撤回されれば、公平性の議論は残る。滑走路の先に見えるのは、政治判断と運航現場の最適化をどう両立させるかという難題である。