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社殿へと続く石畳に朝のひかりが差し込む。2025年10月18日、東京・九段北の靖国神社で、日本維新の会の石平参院議員が秋季例大祭の時期に合わせて参拝した。中国出身で日本国籍を得た初当選の議員が、節目の場でどのような姿勢を示すのか。9月に中国政府が科した制裁の余波が残るなか、国内外に投げかける意味は小さくないと映る。
静かな境内で示した誓いの行方
鳥居をくぐる参拝者の列に混じり、石氏はゆっくりと社殿へ向かった。秋季例大祭は境内の空気を一段と緊張させる。玉串をささげる人々が肩を寄せ合い、通り過ぎるたびに小さな礼が連なる。周囲のざわめきは抑えめで、足音と柏手の響きが残る。現時点で確認されている範囲では、石氏は参拝後に報道陣の取材に応じ、英霊の遺志を受け継ぐ趣旨を語ったとされる。
石氏は中国出身で、日本に帰化して政治の道を選んだ。7月の参院選で初当選し、国政の舞台に立ったばかりだ。国籍や出自に対する視線を承知のうえで、国家観や歴史認識をどう言葉にするかが問われる立場にある。参拝という行為は、支持層に向けた明確なメッセージであると同時に、反発や批判も想定される選択であり、その覚悟が透けて見える。
一部報道によれば、石氏は前日の2025年10月17日に超党派の議員連盟「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーと参拝していたことも明らかにしたという。議連という枠組みは、個人の信条を超えた集団としての振る舞いを社会に示す機能をもつ。この連続した参拝は、個としての信念と、政治集団の動きが重なり合う瞬間だったとみられる。
中国の制裁が残した影と余韻
2025年9月8日、中国外務省は「日本の参議員・石平」に対する反制裁措置を公表した。理由として、台湾や歴史認識の問題で「長期間、誤った言論を広めた」との主張に加え、「公然と靖国神社に参拝した」点を挙げている。制裁の中身は、中国国内の動産・不動産を含む資産凍結、現地組織・個人との取引や協力の禁止、本人と直系親族の入国拒否などで、決定は同日付で発効した。
中国政府が名指しで現職の日本の国会議員に措置を講じた事例は異例である。外交的圧力のメッセージは明確で、日中間の懸案と歴史認識が今も敏感な火種であることを改めて示した格好だ。石氏の今回の参拝は、その発表からおよそ1か月後の行動にあたる。対外的な反発が予見される中で、歩みを止めなかったことに、本人の意思の固さが浮かぶ。
制裁は象徴性が強い一方、国内政治の現場では、表現の自由と政治家個人の歴史観の表明がどこまで許容されるかという論点が横たわる。石氏の言動は、選挙で託された負託との距離感、政治的な責任の取り方、国際関係に与える影響の三つの軸で測られるべきだろう。反発と支持が併走する構図は、今回も例外ではないと映る。
揺れる歴史認識と政治の身振り
靖国神社の秋季例大祭は、毎年この時期に営まれ、政治家の参拝が注目されやすい。神社側の案内でも、秋の祭典に関する告知や報道向けの周知が続いている。政権の立場や国会の空気、近隣諸国の反応によって、参拝の是非はたびたび国内世論を二分してきた。石氏の行動も、この長い揺らぎの線上に位置づけられる。
現時点で確認されている範囲では、今回の参拝は個人としての決意を示す色合いが濃い。国会議員という立場は、外交上の波紋や経済関係への影響まで視野に入れることを求める。とはいえ、歴史と記憶のまなざしは、当事者の言葉からしか立ち上がらない。石氏が語った「国を守る誓い」という主題は、一定の支持とともに、異論や疑問もまた呼び込む。
参拝という「身振り」は、法的な拘束力を持たない。しかし、その政治的含意は重く、国際関係の文脈で読み解かれる。中国が9月に示した制裁は、まさにこの象徴性に反応したものだ。10月18日の行動は、その圧力に屈しないという対外的サインとしても受け取られかねない。内向きの誓いと外向きの発信、その両義性が境内の静けさに重なっていた。
