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中国の市場規制を担う国家市場監督管理総局が2025年11月15日、インターネットプラットフォーム向けの独占禁止コンプライアンス指針（ガイドライン）の草案を公表した。不公正な価格設定や原価割れ販売、アカウントのブロックなど、プラットフォーム経済で問題となりやすい行為を具体的に挙げ、どこからが独占的な乱用と言えるのかを整理しようとする内容だ。草案はネット公開され、同29日まで一般から意見を受け付ける。急成長してきたデジタル市場に、ルールの見取り図を示そうとする動きである。
中国市場監督当局がネット独禁草案を提示、頻発する乱用リスクに枠組み
国家市場監督管理総局は、中国で独占禁止行政を統括する機関だ。この総局がインターネットプラットフォームを対象にしたガイドライン草案を打ち出したことで、これまで個別案件ごとに判断されがちだった行為類型に共通の物差しを与えようとしている。文書は「プラットフォーム部門で独占のリスクが頻繁に生じている」と問題意識を示し、市場支配力のある事業者による行動を重点的に監視する姿勢を明らかにした。
草案が焦点を当てるのは、利用者や取引先が逃げ場を失うような行為だ。不公正な高値設定や、競争相手を排除する目的での原価割れ販売、理由の不透明なアカウント停止、特定のプラットフォームだけで取引するよう迫る排他的な条件、全ネットワークの中で最安値を強要する条項、同じ条件の事業者を恣意的に差別する扱いなどが例示されている。いずれも利用者の選択肢を狭め、将来的な価格上昇やサービス低下につながりかねない点が問題視されている。
こうした行為が議論となる背景には、検索や通販、配車などのサービスがプラットフォーム経済として巨大な影響力を持つようになった事情がある。プラットフォーム経済とは、多数の消費者と事業者をオンライン上で結びつける仕組みのことで、データやアルゴリズム（計算手順）を使ってマッチングや価格を決めるのが特徴だ。中国当局は、その利便性を認めつつも、一部の事業者が優位な立場を利用し、競争をゆがめる事例が目立ってきたとみている。
アルゴリズムと価格行動をどう診るか、企業に求められるコンプライアンス
ガイドライン草案の特徴は、目に見える契約条項だけでなく、アルゴリズムやデータ運用が生むリスクにも踏み込んでいる点だ。価格設定や検索順位、画面上の表示回数といった要素が、実際には競合他社の締め出しや、同じ利用者に対する不当な差別料金につながっていないかを、具体的なシナリオごとに整理している。どのような行為が「市場支配の乱用」にあたりうるのか、またどの指標を使って支配的地位を推定するのかなど、評価の考え方を事前に示すことで、当局と企業の認識ギャップを小さくする狙いがある。
一方で、草案は法的拘束力を持つ細かな規則というより、「コンプライアンスの手引き」と位置づけられている。事業者に対しては、自社や自社プラットフォームが支配的地位に近づいていないかを定期的に点検し、独占禁止法に触れるおそれのある行動を事前に洗い出すよう促している。特に、同業者との価格協調や情報交換を通じた暗黙のカルテル、プラットフォームが自ら出店する自社ブランドを優先表示する行為などについて、社内ルールや監視体制を整えることが求められる。
今回の草案は、民間からの意見募集を経て内容が修正される可能性もあるが、デジタル市場における「ルールの方向性」を示す意味合いはすでに大きい。国内企業だけでなく、中国市場で事業を行う海外企業や、現地プラットフォームを販売経路として活用する日本企業にとっても、価格設定やキャンペーン設計、データ活用のあり方を見直すきっかけになりうる。世界各地でプラットフォーム規制の議論が進むなか、中国の新たな指針がどのような実務慣行を形づくっていくのかが注目される。
