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中国の王毅外相が27日、フランス大統領府の外交顧問エマニュエル・ボンヌ氏と電話で協議し、日本の現職首相による台湾をめぐる最近の発言を「挑発的だ」と厳しく批判した。王氏は、この発言が中国の主権と領土一体性を損なう行為だと位置づけ、歴史の流れを逆行させるものだと主張した。中国側はフランスに対し、台湾問題での「一つの中国」原則の順守と相互の核心的利益への支持を改めて求めている。電話越しのやり取りは、中国が日仏だけでなく欧州全体を巻き込んだ外交戦に踏み込んだことを象徴している。
日本国内にじわり広がる不安と距離感
発端となったのは、日本の首相が今月上旬、台湾有事で中国が封鎖や武力行使に踏み切った場合、日本が軍事的対応を行う可能性に言及したことだ。ロイター通信などによれば、この発言に中国側は「越えてはならない一線を踏み越えた」と強く反発し、国連事務総長あての書簡でも国際法違反だと非難している。一方、日本政府は防衛力強化や抑止力の議論を国内で進めており、発言を「仮定の話」としつつも撤回はしていない。
こうした応酬の陰で、最前線に立つのは日本周辺の住民や企業だ。台湾に近い南西諸島では、自衛隊基地の増強やミサイル配備計画が相次ぎ、観光業や漁業と安全保障政策との折り合いが課題になっている。台湾有事が現実味を帯びれば、日本発着の航空路や海上輸送も大きな影響を受ける可能性がある。今回の中国とフランスの電話協議は、一見遠い欧州の話に見えながら、こうした生活や物流のリスクをさらに複雑にしかねない。
中日関係の悪化は、すでに観光や食品輸出など非軍事分野にも波及している。各紙の報道では、中国側が日本産水産物の輸入規制や団体旅行の抑制措置を取ってきた経緯が指摘されている。安全保障をめぐる言葉のやり取りが、ビザ発給や留学、ビジネス上の往来のしやすさといった「日常のつながり」にまで影を落とす可能性を、私たちは意識せざるをえない局面に来ている。
中国がフランスに託す「一つの中国」と対日けん制
今回の電話会談は、フランス側の要請で行われたと中国外交部は説明している。王氏は協議の中で、台湾が中国の一部であるという「一つの中国」原則は戦後国際秩序の根幹だと改めて位置づけ、日本の首相による台湾関連発言はその枠組みを揺るがすものだと主張した。中国国営メディアや中国日報などによると、王氏は、日仏両国が国連安保理常任理事国であるフランスに対し、「第二次世界大戦の成果を守る責任」を共有すべきだと訴えたという。
フランス側のボンヌ氏は、従来どおり一つの中国政策を堅持し、対話を通じた台湾海峡の安定維持を重視する姿勢を示したと伝えられている。欧州連合（EU）は一般に、台湾海峡の平和と現状維持を重視しつつも、米中対立の板挟みを避けたい立場だ。今回、中国がフランスの大統領外交顧問に直接働きかけた背景には、EU最大級の軍事力と外交影響力を持つフランスに、自らの対日メッセージの正当性を補強してほしいという思惑が透けて見える。
同時に王氏は、この電話を中国とEU関係全体のテコ入れにも結びつけている。中国外交を扱う国営メディアによれば、中国側はフランスに対し、EUが対中政策で「パートナー」という基本姿勢を維持し、経済摩擦は対話で処理すべきだと呼びかけた。対日批判と対欧関係の管理を同じ文脈で語ることで、中国は台湾問題を単なる二国間対立ではなく、戦後秩序や多国間主義をめぐる争点として位置づけようとしている。
欧州を巻き込む台湾有事リスク、日本の次の一手は
中国が欧州、とりわけフランスを巻き込んで日本の発言をけん制する構図は、台湾情勢がもはや東アジアだけの問題ではないことを改めて示している。AP通信なども指摘するように、台湾海峡は世界の半導体供給や海上輸送にとって要衝であり、軍事衝突は世界経済全体に波及しかねない。そのため、欧州諸国も台湾問題で明確な立場表明を迫られる場面が増えている。
日本にとって難しいのは、安全保障上の懸念から台湾有事への備えを強めたい一方で、その発信が中国を刺激し、経済や市民交流への反作用を招くジレンマだ。自衛隊と米軍の連携強化や南西諸島への部隊配置は、地域住民にとっては生活インフラや観光との両立という現実的な課題を伴う。今回のように中国が欧州を舞台に日本の発言を批判した場合、日本側がどのフォーラムで、どのような言葉を用いて自らの立場を説明するかが、今後いっそう問われていく。
今回の中仏電話会談一本で情勢が動くわけではないが、中国が欧州を味方につけつつ日本の発言を縛ろうとする動きは、インド太平洋の安全保障と日欧関係の両方に長く影を落とす可能性がある。日本が同盟国だけでなく欧州やアジアの近隣諸国とも丁寧に対話を積み重ね、自国の防衛と地域の安定をどう両立させるのかが、これからの外交の静かな焦点となりそうだ。
