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ダルエスサラームの法廷で被告の名が次々と読み上げられ、手錠の音が続いた。2025年10月29日の総選挙を巡る抗議のあと、国家転覆を企図したとして市民の訴追が広がっている。政府は選挙の正当性を強調する一方、監視団は基準未満と評価し、隣国では在留自国民の安全に神経を尖らせる。緊張は法廷と街路の双方で続いている。
裁判所で進む大量起訴と広がる不安
2025年11月7日までに、裁判所文書に基づき少なくとも約100人が反逆罪で起訴されたと報じられた。起訴の中心は経済の中枢であるダルエスサラームで、抗議に関連する複数の事件が束ねて扱われる構図だ。野党が有力候補の不出馬や拘束を問題視する中、治安当局は秩序回復を名目に強い姿勢を崩していない。
起訴状は「選挙の遂行を妨げ、当局を威嚇した」とする趣旨で、破壊行為や扇動の疑いが並ぶ。被告の中には、催涙ガスから身を守るためのマスク購入を呼びかけたとして、若い実業家が含まれると伝えられた。検察は一連の行為を選挙妨害の意図の表れとみなし、重い罪名を適用している。
宗教指導者や人権団体は、広範な訴追が社会の亀裂を深めかねないと懸念を示す。抗議の場では発砲音が響いたとの証言が重なり、犠牲者数をめぐって主張は割れている。政府は「自由で公正」と強調するが、野党や活動家は過剰な武力行使を訴える。数字の食い違いが、現場の不信を一層濃くしている。
選挙の評価と情報遮断が残した影
選挙は2025年10月29日に実施され、現職のサミア・スルフ・ハッサン大統領が得票率約98％と発表された。だが、アフリカ連合の選挙監視団は11月5日の予備声明で、競争性の低下や反対勢力への制約を指摘し、民主的基準を満たしていない部分があったと結論づけた。政治活動の自由と公平な競争条件の欠落が、評価を厳しいものにしている。
監視団は、選挙期間中のインターネット遮断や一部観察の妨げも記録した。通信が途絶えると、投開票の透明性や不正疑念の検証が難しくなる。街頭の抗議と治安出動が重なった時間帯には、監視員の移動や報告にも支障が出たという。情報へのアクセスが閉ざされた空白は、後から埋めようとしても容易に埋まらない。
一方で当局は、投票資材の配備や障がいのある有権者への配慮など、技術的な準備を進めたと説明する。だが、主要野党の活動制限や候補の不在が続けば、制度の整備だけでは信頼は戻りにくい。表の静けさと裏の緊張が並走した結果、選挙の正当性をめぐる認識は社会の中で二つに分かれたままだ。
越境する不安と外交の通話
抗議の余波は国境も越えた。近隣の政府は在外自国民の安全確保を優先課題に掲げ、外相同士の電話協議が相次いだ。ケニアのムサリア・ムダヴァディ外相は、タンザニアの同職マフムド・タビト・コンボ外相と連絡を取り、在留者の権利と尊厳の保護を求めたと明らかにした。両国は既存の外交・領事ルートで懸案に対処する方針を確認している。
現地では、外国人が騒乱に関与したとの当局説明も伝えられ、疑心は社会の目に影を落とす。民間の雇用現場では身分確認が一段と厳格化され、教育やサービスの現場から人が引いていく動きも出たという。抗議と治安対応、そして就労の現場が交錯し、柔らかな日常がじわりと削られていく。
街角にはまだ焼け跡の匂いが残り、法廷の記録には名前が増え続ける。選挙後にしつらえられた静けさは、時折交じるサイレンで破られる。数字や声明が行き交う一方で、暮らしの足元では小さな選択が積み重なる。緊張の余韻は、誰もが語らないうちに日々の隙間へと染み込んでいく。
