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米エネルギー省とAdvanced Micro Devices(AMD)が、Oak Ridge National Laboratory(ORNL)に2基の次世代AIスーパーコンピューター「Lux」と「Discovery」を導入する計画を明らかにした。官民あわせて約10億ドル規模の投資とされ、エネルギー、医療、国家安全保障の最前線を押し広げる狙いだ。発表は2025年10月28日で、Luxは2026年初頭に稼働、Discoveryは2028年納入・2029年本格運用の予定と伝えられている。
新たな官民連携が動き出す
発表によれば、2基のシステムは米国のAIと高性能計算を牽引する旗艦として位置づけられる。計画はORNLを中核に、AMDとHewlett Packard Enterprise(HPE)、さらにOracle Cloud Infrastructure(OCI)が参画する形で進む。官民協働で構築する「主権AI」基盤の要となり、科学分野のAI活用を一段押し上げると映る。
背景には、AIによる科学の進め方が転換点を迎えている現実がある。既存のモデリングとシミュレーションにAIを重ねることで、材料探索からエネルギー設計、医薬の最適化まで探索速度が飛躍する構図だ。AMDはこの取り組みを米国の競争力強化に直結する公民連携の好例だと強調し、加速の合図を送った。
ORNLの現場では、次期設備に合わせた運用設計やデータ基盤の整備が進む。研究者の「問題から解までの時間」をどう縮めるかが焦点で、ラボの通路には試験ラックやネットワーク機器のレイアウト図が並び、静かな高揚感が漂う。計画は段階的に容量を積み増す設計とみられる。
「Lux」が切り開く近未来
先行稼働するのがAI特化の「Lux」だ。2026年初頭の展開を目指し、AMD Instinct MI355X GPUとAMD EPYC CPU、AMD Pensandoのネットワーク技術を中核に据える。HPEのProLiant Compute XD685を活用し、OCIのインフラも組み合わせる構成で、科学・エネルギー・製造・医療・電力網といった優先課題に直結するAI基盤を素早く立ち上げる。
Luxは大規模モデルの学習・微調整・推論を一体で回す「AIファクトリー」として設計され、近距離のデータと研究チームを結びつける。ORNLの分野横断データ資産と結びつくことで、核融合・核分裂のシミュレーション、先端材料や量子、先進製造まで射程に入れる。短期にAI計算資源を拡充し、成果の社会実装の時差を縮める目論見である。
システムはオープンで安全なスタックの採用を標榜する。研究現場の要請に応じて拡張しやすい設計とされ、学術・産業・官の混成チームが同一基盤で検証から実装まで滑らかに移れることが鍵だ。即応力と拡張性の両立が、米国のAIリーダーシップを当面の数年で底上げするとみられる。
「Discovery」が描く長距離走
続く「Discovery」は、HPEの次世代HPE Cray Supercomputing GX5000をベースに、次世代AMD EPYC(コード名“Venice”)とAMD Instinct MI430Xを搭載する。2028年に納入、2029年にユーザー運用を開始する計画だ。ORNLの現行旗艦「Frontier」を大幅に上回る性能を狙い、AIとHPCの融合を標準動作にする設計思想がにじむ。
高帯域のメモリとノード間ネットワークを全域に張り巡らせる「Bandwidth Everywhere」の考え方を採り、科学アプリとAIを同時に回す前提で最適化する。オープンソースとオープンスタンダードを柱に据えることで、再現性と移植性を担保し、主権AIの根太を太くする。消費電力は同等水準で計算量を増す設計とも示されている。
応用は幅広い。次世代炉やバッテリー、触媒、半導体などの設計空間を一気に探索し、バイオ・医療から安全保障まで複雑系の意思決定を支える。現時点で確認される範囲では、Discoveryは研究者の作業環境をFrontierから滑らかに継承しつつ、桁違いの計算密度へ踏み出す計画だ。長距離走の主役が見え始めている。
