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展示ホールの一角で、銀色の筐体から「カチッ」という充電音が続き、担当研究者が波形モニターに視線を凝らした。防衛装備庁技術シンポジウム2025が11月11日と12日に開かれ、電磁パルス(EMP)関連の取り組みが最新の装置とともに紹介された。破壊に頼らず電子機器に作用する手段として、研究は着実に次の段階へ進んでいるように映る。
会場で見えた研究の輪郭
今回のシンポジウムは、防衛装備庁の研究成果や産学官の連携状況を広く共有する場として開催された。EMPは強い電磁波で電子機器や通信を阻害する現象で、装置の外形に変化を与えず効果を及ぼす点が特徴だ。会場では、電磁波領域の計測・評価や試験装置の紹介が進み、来場者は発生源だけでなく「どう測るか」「どう守るか」という周辺技術を含む全体像に触れた。
技術説明では、パルスパワー(短時間に大電力を取り出す電力技術)の重要性が繰り返し示された。連続的に弱い電波を当てるよりも、瞬間的に高い電力を集中させるほうが影響は大きいからだ。電源、整合回路、放射器、計測の一連の系をどう小型化し、指向性と安全性を確保するか。研究者が示す波形の立ち上がりや減衰のわずかな差が、装置の効率や有効距離の議論につながっていた。
一方で、EMPの議論は攻守両面にまたがる。能動的な「無力化」の検討と同時に、重要インフラや装備の防護、誤作動を避ける電磁適合(EMC)の確立が欠かせない。会場では、遮蔽・フィルタ・接地の基礎的な対策から、装置単体ではなくシステム全体で影響を見極める評価手順まで、段階的に積み上げる姿勢が共有されていた。研究は派手さを抑えながらも、運用に耐える実装へと輪郭を濃くしている。
基礎から実証へ―国内の足取り
公開資料をたどると、国内のEMP研究は「基礎整備→試験系構築→効果検証」という道筋を踏んでいることがわかる。近年の予算では、将来のEMP装備技術に関する研究費が位置づけられ、基盤的な取り組みが継続してきた。研究の射程は個別装置の改良にとどまらず、評価用の環境整備や手順策定にまで及び、装置と評価が並走する構図だ。
2025年には、実験用パルス電源装置を用いた阻害効果の確認作業が計画され、納入先として研究所名を明示した案件が示された。加えて、シールドルームなど評価環境の整備も進む。これらは、発生源の出力向上だけでなく「再現性のある測定」を実現するための条件作りにほかならない。計測器の飽和や反射の影響を抑え、波形と対象機器の応答を対応づけて積み上げる。この地道な工程が、将来の運用判断を支える証拠となる。
研究の節目ごとに、展示や講演で途中経過を開示する姿勢も続いている。公開できる範囲で外部の視点を受け取り、産学官で改良サイクルを回す。現時点で確認できる範囲では、出力や効率だけでなく、試験系の信頼性向上に力点が置かれている。派手な数値を競うより、装置と評価を一体で磨く。進捗の足取りは小刻みだが、運用可能性に寄与する情報が確実に増えている。
運用と安全、残る論点
実装を見据えると、論点は技術だけに収まらない。第一に安全と法規の整合だ。高出力の電磁波は非意図的な影響を引き起こし得るため、試験時の遮蔽や監視の手順、運用時の影響範囲の見積もりが要る。第二に指向性と副作用の制御である。必要な対象だけに作用させ、他の味方システムへの干渉を抑えるため、ビーム形成や時間幅の最適化が鍵を握る。第三に後方支援で、電源・冷却・安全確認を含む運用負荷を軽くする工夫が求められる。
同時に、対処側の成熟も研究を前へ押し出す。遮蔽材やフィルタの改良、システム設計段階でのEMC配慮が進めば、攻守の相互作用で技術が磨かれる。シンポジウム会場で感じたのは、単一の“決め手”を探すのではなく、装置・評価・運用設計を束ねて全体最適を目指す姿勢だ。静かな波形の差分に意味を読み取り、できるところから確かめる。そうした歩みが、将来の装備選択の自由度を広げていく。
研究紹介は控えめな語り口だったが、装置の動作音と測定値の積み重ねが、次の節目の近さを穏やかに示していた。