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米食品医薬品局(FDA)は2025年12月15日、アストラゼネカと第一三共の乳がん治療薬「エンハーツ」と、スイスのロシュが販売する「パージェタ」の併用を、HER2陽性の切除不能または転移性乳がんの1次治療として承認した。エンハーツは2019年に米国で後治療向けに位置付けられてきた経緯があり、治療の出発点で選べる薬へと“前倒し”された格好だ。効果の上積みだけでなく、検査と副作用管理を含む運用をどう整えるかが、患者と医療現場の次の論点になる。
治療の「最初」に置かれる意味は、選択肢の広がりと手続きの増加
対象となるのはHER2陽性の進行乳がんで、HER2はがん細胞の表面に多く出ることがあるたんぱく質だ。陽性かどうかで効く薬が変わるため、治療開始前にFDAが認めた検査で確認するのが前提になる。今回の承認により、これまで別の治療を経てから検討されがちだった薬が、初手の選択肢に入った。生活者にとっては、治療の見通しが立ちやすくなる直接影響が期待される一方、検査や説明の工程が増える可能性もある。
初回から使える薬が増えることは、裏返せば「どの順番で何を使うか」を早い段階で決める難しさも生む。従来の標準は、タキサン系の化学療法にトラスツズマブとパージェタを組み合わせるTHPと呼ばれる枠組みだった。新しい併用は、患者の状態や通院のしやすさ、仕事や家庭の予定といった要素も含めて設計が必要になる。治療の選択肢が増えること自体は前進だが、現場の説明負担や意思決定の重さは軽くならない。
鍵を握ったのはPFS、治療が効いている時間をどれだけ延ばせるか
根拠となったDESTINY-Breast09試験の中間解析では、エンハーツとパージェタの併用群で無増悪生存期間(PFS)が中央値40.7カ月となり、THP群の26.9カ月を上回った。PFSは「病勢が進まない期間」を示す指標で、日々の暮らしの安定に近い。奏効率(腫瘍が縮小した割合)も併用群が85.1%、THP群が78.6%だった。完全奏効の割合は15.1%と8.5%で差が出た。
一方で、こうした指標がそのまま「どれだけ長く生きられるか」に直結するかは、慎重に見極める必要がある。解析時点は2025年2月26日で、追跡は継続中とされる。試験では安全性が既知の範囲とされ、重い副作用(グレード3以上)の割合は併用群63.5%、THP群62.3%と大きくは離れていない。短期の優位が示された今、臨床での位置付けを決める材料は、長期のデータと実装の経験に移りつつある。
「狙って運ぶ薬」と「受容体を止める薬」、役割の違いを重ねる設計
エンハーツは抗体薬物複合体(ADC)で、ひとことで言うと「目印に結び付く抗体に、薬剤を抱えさせて運ぶ」仕組みだ。HER2を目印にがん細胞へ近づき、薬剤を届けることを狙う。パージェタ(一般名ペルツズマブ)はHER2を標的にする抗体薬だが、狙いは“運ぶ”ことではなく、増殖の合図に関わる経路を抑える点にある。役割の違う2剤を重ねる発想が、初回治療で試された。
ただし、薬が強くなるほど「効く人を外さない」ことと同時に、「合わない人を早く見つける」運用も重要になる。PFSが延びても、治療が長く続けば通院回数や検査の積み重ねが増え、体調の波と付き合う時間も長くなる。ここには生活の組み立て直しという限定的ではない負担が伴う。治療を“続けられる設計”にするには、症状の変化を拾う連絡体制や、休薬や減量の判断基準を共有することが欠かせない。
残る争点は2つ、延命効果の確定と、費用を含む普及の速度
今後の分岐は大きく2つある。第1に、全生存期間(OS)で明確な差が積み上がれば、治療の「最初に使う」流れが一段と定着し、ガイドラインの更新も進む可能性がある。第2に、OSの差が小さい、あるいは集団の一部に偏るなら、PFSの利点を生かしつつ患者選択を厳格にする方向へ寄るかもしれない。いずれにしても、今回の承認は“順番の議論”を前へ動かしたが、結論は追跡データと実地の蓄積で固まる。
もう一つは費用と体制だ。新薬の組み合わせが広がれば、保険償還や自己負担の設計次第で家計への間接影響が出る可能性がある。もし対象が拡大し、薬剤費が医療財政を押し上げる局面になれば、保険料や給付の議論にも波及し得る。逆に言えば、患者側は「HER2検査の結果」と「1次治療の候補」を早い段階で整理できるようになる。前倒し承認の価値は、薬そのものだけでなく、迷いを減らす情報の順序立てにもある。
参考・出典
- FDA Approves Enhertu Plus Perjeta as First-Line Therapy for HER2-Positive Metastatic Breast Cancer | PharmExec
- T-DXd Plus Pertuzumab Outperforms Standard of Care for First-Line Treatment of Advanced HER2-Positive Breast Cancer | Dana-Farber Cancer Institute
- FDA approves fam-trastuzumab deruxtecan-nxki
