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秋の風が吹き込む校門前で、保護者たちのざわめきが途切れない。福岡県須恵町立中学校の補助教員が、採用時に偽造した教員免許のコピーを提出したとして逮捕された件で、養子縁組を経て複数回、名字を変えていたことが判明した。国のデータベース照会をすり抜けた可能性が浮かび、採用現場の確認手順と安全網の穴が露わになっている。
名字が変わり続けた足跡が映すもの
現時点で確認されている範囲では、補助教員の男は一九八五年に最初の教員免許を得た当時は「古畑」姓を名乗り、その後の逮捕・処分を経て名字を変えながら教育現場に戻ろうとしていたとみられる。二〇一四年の採用面接時は「近藤」、一七年の免許更新の場面では養子縁組により「橋本」を使用し、少なくとも四年以上前に再び「近藤」に戻していたという。名字の変遷は、身元の照合を難しくする要因として重くのしかかる。
この男は須恵町の会計年度任用の補助教員として、授業そのものを受け持つ正規教諭とは異なり、授業中や放課後に学習を支える役割を担っていた。学校という閉じた空間で、補助という名の近接性が生まれる場に立っていた事実が、今回の事件をより重く見せる。名簿上の一行では追い切れない経歴の「揺らぎ」が、教室の安全と信用を静かに侵食していたと映る。
捜査当局は、名字の変更が国のデータベースでのヒット回避につながった可能性を視野に入れている。制度の盲点に人為的な攪乱が重なれば、紙一重の手口でも現場は見抜きにくい。名字が変わっても人は同一であるという前提を、どのように技術と運用で担保するかが問われている。
データベースの穴と、現場が感じた違和感
須恵町教育委員会は採用時、児童生徒への性暴力等で処分された元教員らを登録する国のシステムで氏名検索を行い「該当なし」と判断していた。だが九月十一日、保護者から「娘が男性から『エロくみえるよ』と言われた」との相談が学校に寄せられ、翌十二日には同姓同名の過去事案がネット上にあるとの指摘が続いた。学校側は六月にも、褒める意図だったとされる生徒の頭への接触を指導しており、違和感の積み重ねがあったとみられる。
教育委員会の聞き取りに対し、男は教員免許の原本を示せず、回答は曖昧だったとされる。町は自宅待機を指示し、県警に相談。のちに偽造有印公文書行使容疑での捜査が進み、逮捕に至ったと報じられている。採用時に提出された「コピー」という形式が、原本確認のプロセスを遅らせ、疑いの解消や不正の早期発見を難しくした構図が浮かぶ。
一方で、国のデータベースは「氏名」を入口とする運用が中心で、改姓や別名の経歴をどこまでカバーできるかは制度設計に依存する。今回、当時の名字で登録されていたとみられる情報と、採用時に提出された氏名が一致しなかったことで照会が空振りになった可能性がある。現場は「検索で該当なし」という結果に依存し過ぎなかったか、運用の姿勢も問われる。
見直すべきは、紙一枚ではない「確認」の全体像
再発防止の核心は、コピー提出に頼らない原本確認と、多面的な本人確認の徹底にある。免許状の原本照合はもちろん、免許番号の照会、発行都道府県への照合、過去名や通称名の申告と裏取りの義務化が必要だ。採用側が「過去名」の提出を求め、戸籍上の履歴をもとにデータベースを複数条件で横断検索できる仕組みを整えれば、名字変更を用いた回避は難しくなるとみられる。
同時に、学校現場から上がる小さな違和感を無視しない回路づくりが欠かせない。今回も、言動への違和感から過去の情報に当たった保護者の指摘が調査の起点になっている。教職員の接触行為や発言に関する校内報告のルール化、相談窓口の周知、第三者を交えた迅速な聞き取り体制が、形式的な書類審査の隙間を埋める。制度の穴を技術で塞ぎ、現場の感度で補う「二層構え」が現実的だ。
今回の逮捕と名字変更の相関は、あくまで捜査中の事実関係に基づき、今後も更新されうる。一部報道によれば、過去の処分歴との連続性も指摘されるが、確定情報と推測を峻別しつつ検証を重ねる必要がある。学校の信頼は時間をかけて築くものだ。紙一枚の真偽にとどまらず、人の配置と制度の網の目をどう細かくするかが、地域の安心を支える鍵になる。
