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昼どき、白い湯気の向こうで丼が次々と運ばれていく。そんな日常に、「食べ過ぎに気をつけて」という研究者の声が重なった。山形大学と県立米沢栄養大学の共同研究が、ラーメンを週3回以上食べる人は週1、2回の人に比べ、死亡リスクが1.52倍高い傾向を示したという。麺の街の誇りと健康の折り合いを、数字から読み解く時間が来ていると映る。
一杯の背後にあるデータ
研究チームは、40歳以上の山形県民6,725人を対象に、ラーメン摂取頻度と健康影響を追った。対象者を「月1回未満」「月1〜3回」「週1、2回」「週3回以上」に分類し、およそ4年半にわたり死亡の発生を追跡した。結果は2025年8月に国際誌に掲載されたとされ、地域の食文化を背景にした前向き観察研究としては規模が大きい部類に入るとみられる。
調査期間中に145人（男性85人、女性60人）が亡くなり、頻度ごとの死亡率が算出された。最も低かった「週1、2回」を基準にすると、「週3回以上」は1.52倍と高く、「月1回未満」も1.43倍だったという。現時点で確認されている範囲では、「週3回以上」の群に体格指数（BMI）の高い人や喫煙者が多い傾向があり、生活習慣の違いが数字を押し上げている可能性が浮かぶ。
ただし、相関は示しても因果は断定できない。研究者は「月1回未満」の高さについて、既に高血圧や糖尿病で食が細くなるなど「食べられない事情」があった可能性を指摘した。観察研究の限界として、残余交絡の影響や地域特性の偏りは避けがたい。結論を急がず、数字の意味を過不足なく受け止める姿勢が求められるといえる。
ラーメンの街と数字が語るもの
山形の昼は、麺線の白さとスープの香りが街のリズムを作る。総務省の家計調査でも「中華そば（外食）」への支出で山形市は全国上位が続く。並ぶ人の背中に、地域の嗜好と誇りが刻まれている光景は珍しくない。こうした土壌があるからこそ、頻度と健康影響を地域で確かめようとする試みには現実味が宿る。
一方で、ラーメンの塩分や脂質の多さが高血圧や脳血管疾患、胃がんなどのリスク要因になりうることは、既存の公衆衛生知見とも整合する。ただ、今回の研究が捉えたのは「すべての原因による死亡」の増減であり、特定の病気に限定した分析ではない点に注意が要る。盛況な店の湯気の向こうで、生活習慣全体の積み重ねが数字に映る構図が見えてくる。
誰に有利なのか。過度な不安は消費を冷やすが、適度な抑制は健康を守る。店側にとっても、減塩の工夫や野菜の提案は新たな価値になりうる。偶然ではなく必然の変化として、街の一杯が少しずつ軽やかに変わる契機になれば、食文化と健康の折り合いはつきやすくなると映る。
何を変えるか、何を待つか
研究者は「ラーメンが必ず危険」という話ではないと強調し、具体策としてスープを残す、野菜を加える、塩分控えめを選ぶなどの工夫を挙げる。麺を楽しむ時間を短くし、汁を飲み進めない意識だけでも、ナトリウム摂取は抑えられる。夜遅い時間を避け、主食・主菜・副菜のバランスを整える基本に立ち返ることも、日々の一杯を味方に変える近道になる。
一方で、今回の知見は山形県内の中高年を中心にしたデータであり、他地域や若年層にそのまま当てはまるとは限らない。自己申告の頻度やライフスタイルの差、社会経済的要因など、測りきれない要素は残る。今後は他県を含む追試や、血圧・腎機能・腸内環境など中間指標を組み込んだ精緻な追跡が求められる段階にある。
罪悪感で遠ざかる必要はないが、頻度と食べ方の舵を少し切る。週3回を常とするのか、週1、2回に落とすのか。誰にとっての最適解かは、体調や持病、仕事のリズムで変わる。数字が教えるのは「一杯の引き算」であり、次の休日の昼、湯気の向こうで自分の選び方を確かめることなのだと映る。
