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白い防護服に身を包んだフランス人ユーチューバーが、福島の被災地で音を集める姿を映した動画を投稿した。空き家とみられる民家に入る場面もあり、地元では不安や戸惑いが広がっている。動画は2025年10月16日に公開されたとみられ、ネット上で議論が波となって広がっている。記録と侵入、その境界を社会に問いかける出来事である。
映像に映る「音の採集」と空き家の内部
画面には「ASMR IN FUKUSHIMA」と題された約10分の映像が並ぶ。道路や電柱、閉じたシャッター、銀行の自動ドア、鉄柵、トラックの荷台。男性はマイクと測定器を手に、無人のまちで指先や道具で叩き、音を拾い集めていく。背景と位置関係から、原発事故で全町避難を余儀なくされた福島県浪江町での撮影とみられる。
やがて場面は屋内へ移る。カレンダーは2011年3月で止まり、箪笥やふすま、ピアノや衣類が残る空間で、男性は対象物に触れては響きを確かめる。散乱した生活の痕跡がレンズの奥に沈み、震災と原発事故の時間が凍りついたままの空気が漂う。空き家とみられるが、所有者の同意や許可の有無は明らかでない。
本人はコメントで、立入禁止やレッドゾーンには行かず、許可された区域のみを訪れたと説明したとされる。一方で、視聴者からは「記録として意義がある」という見方と、「私有地への侵入は許されない」との批判が交錯する。登録者は約99万人規模とみられ、反響の大きさが判断の難しさを浮かび上がらせている。
地元の受け止めと町の対応
浪江町の担当者は、動画に映る屋外の多くが避難指示解除エリアとみられるとしつつ、私有地や建物内への無断立ち入りは全国的に許されない行為だと指摘した。町は警察や委託警備会社、地域の見守り隊と連携し、周知とパトロールの強化を図っているという。現場を知る自治体の現実的な対応がにじむ。
一方で、住民の記憶が染み込んだ場所が“採集の舞台”として切り取られることへの違和感も広がっている。画面の向こうに映るのは、日常を置き去りにしたままの家財や子どもの壁飾りだ。失われた時間の重みが、音の実験と生々しくぶつかり合う。その衝突が、不安や怒りというかたちで言葉になっていると映る。
ただ、現時点で確認されている範囲では、この動画が直ちに事件として扱われているかは見えていない。許可の有無、撮影地点の細部、所有者との関係性など、法的評価を左右する要素は多い。自治体の警戒感が高まるなかで、創作者側の説明責任と透明性がより一層問われている状況だといえる。
近い過去に起きた逮捕事案と法的な線引き
県内では2025年9月24日、帰還困難区域の大熊町にある空き家へ不法に入り込んだ疑いで、ウクライナ国籍の男性3人が邸宅侵入容疑で現行犯逮捕されている。視聴者からの通報を受け、配信中の現場に警察が駆けつけたとされる。午前8時35分ごろの逮捕で、動画配信が発覚の端緒となった構図が示された。
たとえ避難指示が解除された地域であっても、私有地は法の保護下にある。建物や敷地へ正当な理由なく立ち入れば、邸宅侵入などの犯罪に問われうる。帰還困難区域には、今も立ち入りに厳格な制限が残る場所が点在する。線引きの理解と遵守は、地域の尊厳を守る最低限の前提であり続けるとみられる。
創作や報道の現場では、地域や所有者への事前説明や許可取り、行政への相談といった手順が欠かせない。被災の記憶を伝えること自体は重要だが、その手つきが雑であれば、残された暮らしの断片を再び傷つける。音を拾う指先が、人の暮らしに触れていることを忘れない姿勢が求められている。
