本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。
10万件超の内部文書流出により、中国の無名に近い企業「Geedge Networks」が、国家級の検閲・監視システムを各国政府に卸売りしてきた実像が浮かび上がった。大規模遮断から個人特定まで可能とされる機能群は、中国の「グレートファイアウォール」を商用化したかのようだ。人権団体と複数メディアの共同検証で、デジタル権威主義が国境を越えて“サービス化”する現実が可視化された。
静かに広がっていた「商用グレートファイアウォール」
Geedge Networksは2018年に設立されたとされ、自らをネットワーク監視のプロバイダーと位置づける。一方で流出資料や研究者の精査によれば、同社は国家の通信基盤に挿入できるハードウェアと、現地の公務員でも扱える運用画面を備えたパッケージを提供してきた。中心製品はデータセンターに据えるゲートウェイ「Tiangou Secure Gateway(TSG)」と、可視化インターフェース「Cyber Narrator」である。
TSGは通過する通信を逐一解析し、必要に応じて遮断する。暗号化されていない通信からは内容やパスワードを抜き取り得る一方、TLSで保護された通信に対してはディープパケットインスペクションと機械学習でメタデータを抽出し、検閲回避の痕跡を推定する。ミャンマー向けのダッシュボードには、同時に8,100万件の接続を監視する画面が確認され、国内26カ所のデータセンターへの設置も記録された。
Cyber Narratorは、携帯基地局の情報などを基に利用者の位置や接続の傾向を一覧できる運用画面だ。ミャンマーでは同社が281種類の一般的なVPNを同定し、遮断の優先度が高いアプリとして54種類を列挙していたとされる。研究者の読み取りでは、数カ月のうちに主要VPNの遮断率が急速に高まった痕跡も見える。こうして国家レベルの一括検閲と、特定個人の追跡が同じ装置で並行して進む構図が示された。
各国で見えた運用の痕跡
流出資料は、Geedgeがカザフスタン、エチオピア、パキスタン、ミャンマーで稼働済みと記す。顧客名はコード化されているが、データセンターの地理記述や国際貨物記録、既存報道との突合によって、研究者は少なくとも4件の外国政府クライアントを特定した。別に「A24」と呼ばれる未特定の案件も見つかっているが、国名を断定できる証拠は現時点で不足している。
運用ログと現実の出来事の照合では、エチオピアで通信遮断が起きる直前に、監視中心の受動モードから積極遮断モードへ切り替わった記録が確認された。例えば2023年2月の遮断の直前に、装置の作動モードが変更されたという記述が残る。研究者は「特定の遮断がこの装置に起因する」との断定は避けつつも、相関の強さを指摘している。
パキスタンでは、既存の検閲基盤「WMS 1.0」を担っていたカナダ系企業の撤退後、2023年にGeedgeの技術を用いた「WMS 2.0」への置き換えが進んだと人権団体が報告した。設置と稼働には米国とフランスの企業が供給する装置やソフトも関与したとされ、制裁や輸出管理の網をすり抜ける「再利用」や相互運用の実態が浮かぶ。2018年に始まったとされる初期導入から、現地の装置群は幾度も更新され、外部企業の役割も入れ替わってきた。
「父」の影と国内への逆流
同社の背後には、中国の検閲インフラ構築に深く関わった人物の影がある。グレートファイアウォールの「父」と呼ばれる方浜興が投資家として関与し、中国電子科技集団(CEC)との近縁も指摘されてきた。CECは2020年に米政府の制裁対象となっており、国家系の技術群と民間ソリューションの境界がにわかに溶け合う様相を呈している。研究者の表現を借りれば、統制の思想と実装が同じ文脈のなかで“輸出入”されている。
流出資料には中国国内での展開も記され、新疆での省級プロジェクトが2024年に本格稼働したとされる。さらに福建と江蘇では、詐欺サイト検知を主眼にしたパイロットが進んだ。望ましい機能として、利用アプリに基づく関係グラフ構築や、基地局を使った三角測量による位置特定、特定個人へのジオフェンス作成が挙げられている。評価スコアの試作も示唆され、全利用者に基準値550を与え、本人確認の度合いで加点し、600未満では接続を制限する案まで見える。
一方で、こうした機能がすべて実装済みかは未確定である。ただ、マルウェアを通信経路に注入できる能力を持つとの技術記述がある以上、個人を狙い撃つ攻撃の敷居は下がる。権利団体は、企業と国家が連携し「監視を売る」構図の拡大を警告する。流出文書の公開が進んだ2025年9月9日以降、関与主体の説明責任や輸出管理の空白をどう埋めるかが、自由なインターネットを望む社会の喫緊の課題である。