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静まり返った工場の駐車場から、ぽつりぽつりと従業員が帰路につく。半導体不足が再びドイツの自動車部品産業を直撃し、ボッシュなど大手サプライヤーは生産計画の組み直しを迫られている。背景には、オランダに本社を置く中国系半導体メーカー、ネクスペリアの経営権を巡る中国とオランダの対立がある。対話の糸口を探るため、オランダ政府は北京への代表団派遣に踏み切ったが、現場の不安はなお消えていない。
ボッシュ工場で広がる一時帰休の波
ドイツの自動車部品大手ロバート・ボッシュは、ネクスペリア製チップの供給が滞るなか、3つの工場で操業の乱れに直面していると18日に明らかにした。影響を受けるのはドイツ国内のザルツギッターとアンスバッハ、さらにポルトガル北部のブラガ工場だ。同社は「顧客への供給を維持し、生産制限を避けるか、避けられない場合は最小限にとどめることを最優先にする」と説明している。
ザルツギッターでは従業員1300人のうち300〜400人、アンスバッハでは2500人のうち約650人が、公的支援を伴う一時帰休の対象になり得るとされる。一時帰休は、国の支援を受けながら労働時間や出勤日数を一時的に減らす制度で、企業にとっては雇用を維持しつつ急な需要減に対応するための「最後の防波堤」だ。ブラガ工場では、3300人のうち約2500人が勤務時間の調整や一時帰休の影響を既に受けており、ラインの動きは日ごとに変わる。
同業のZFフリードリヒスハーフェンは、少なくとも翌週半ばまでは必要な半導体を確保できる見通しで、当面は一時帰休を予定していないという。ただし、その先については「排除できない」とし、状況を見極めながら判断するとしている。自動車産業は在庫を極力持たない「ジャストインタイム生産」が基本であり、チップの流れが少し乱れるだけで、ドイツからポルトガルに至るまで各工場のシフト表が連鎖的に書き換えられていく。
ネクスペリアを巡る対立と広がる波紋
今回の混乱の震源は、オランダに本社を置く中国系半導体メーカー、ネクスペリアである。同社は高度なロジックチップではなく、車の窓やドアロック、エアバッグなどを動かす比較的単純な部品を大量に供給している。オランダ政府は2025年9月末、安全保障上の懸念や経営の透明性を理由に、冷戦期の法律を用いて同社の経営権を掌握した。その後、中国商務省がネクスペリア製品の輸出を厳しく制限し、両国の対立が一気に表面化した。
ネクスペリアのチップは主に欧州で製造されるが、約7割が中国でパッケージングなどの後工程を経てから世界各地に出荷される。この「最後の仕上げ」の部分が止まったことで、ボッシュやZFだけでなく、欧州や日本、米国の自動車メーカーまで部品不足に直面している。ドイツ自動車工業会VDAのマルクス・ボリッヒ専務理事は、状況は依然として厳しく、「数週間先の供給網へのさらなる影響も否定できない」と警戒感を示す。日本でも、日産自動車が九州工場での減産を検討していると伝えられ、簡素なチップ一つが完成車全体を止めかねない脆さが改めて浮き彫りになった。
オランダ政府は対立緩和に向けて、11月中旬に上級代表団を北京に送り、妥協点を探る協議を続けている。交渉の行方はまだ見通せないが、ドイツ各地の工場では、ラインの速度を落としながらも、できる範囲で生産を続ける日々が続く。静かになった構内に響くのは、次のシフトも無事に始められるのかを見つめる労働者たちの視線だけである。
