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警察車両が次々と停まり、扉が開く音が重なった。ドイツ内務省は2025年11月5日、イスラム教団体「ムスリム・インタラクティブ」を憲法違反の疑いで禁止し、解散と資産没収を命じた。ハンブルクの拠点7棟の強制捜査と、関連が疑われる2団体への家宅捜索も実施。路上とネットに広がった過激な呼びかけに、国家が一線を引いた形だ。
何が起きたのか
内務省は、同団体の目的と活動が憲法秩序や国際理解の理念に反すると判断した。カリフ制の樹立を掲げ、イスラエルやユダヤ人への憎悪をあおり、女性や性的少数者の権利を軽んじる発信があったと指摘する。政府は団体の解散と資産の押収を決め、法の枠組みの中で強制力を行使した格好だ。省トップのアレクサンダー・ドブリント氏は、自由社会を内側から攻撃する組織は容認しないと強調した。
措置に合わせ、治安当局は北部の港湾都市ハンブルクで拠点とされる建物を捜索した。さらに、捜査は首都ベルリンと西部ヘッセン州にも及び、「ジェネレーション・イスラム」と「リアリタエット・イスラム」への関係先で家宅捜索が行われた。いずれも団体法に基づく手続きの一環で、類似の目的を掲げていないかを検証する狙いがある。
同団体はオンライン発信を軸に支持を広げ、昨春のハンブルクでの抗議行動では「カリフ制こそ解決策」と記したプラカードが掲げられた。参加規模は1000人超と報じられ、全国的な注目と議論を呼んだ経緯がある。設立時期を2020年ごろとする説明もあり、若年層への訴求力をもつ映像表現が特徴とされてきた。
広がる警戒と議論
当局は今回の判断について、宗教や信仰の問題ではなく、公共空間での具体的行為が憲法秩序を脅かすかどうかに限って評価したと説明する。暴力や差別を正当化するプロパガンダが、人々の共存基盤を侵食するとの見立てだ。治安機関は、オンライン空間での過激化が可視化しにくいことも踏まえ、実社会の安全に直結する行為を最小限の介入で抑止する姿勢を示した。
一方、捜索が入った都市の当局者は、動画や短文投稿を入口に共感を広げる手法が若者の可塑性に触れていると危機感を語る。街頭のスローガンとSNSの拡散が連動し、短期間で世論の圧力をつくる構図が見えるからだ。公共の安全を守る責任と、表現の自由を守る責任がせめぎ合う中で、今回は憲法秩序の保全を優先したという説明が目立つ。
もっとも、団体禁止は強い介入であり、司法審査を経て是非が争われる可能性はある。支持者が地下化すれば監視の難度は上がるという副作用も指摘される。政府側は、事実と証拠に基づく限定的な措置だと繰り返し、宗教一般やイスラム教徒全体を対象化するものではないと線引きを図っている。安全と自由の均衡を、個別事案ごとに丁寧に測る局面が続きそうだ。
現場の動きとこれから
禁止決定により、同団体は法的に解散となり、資産は当局管理下に置かれる。団体登録の抹消が進み、活動拠点の差配や資金の流れは検証対象となる。関連メディアや配信基盤についても、運営実態や指揮系統の把握が課題だ。発信の自由と違法な扇動の線引きを見極め、必要な範囲で削除や差し止めが講じられる見通しである。
家宅捜索の対象となった2団体は、現時点では捜査段階にある。名称や構成員が重なり、同様の目的を掲げていないかを確かめるための手続きだという。集合住宅のドアが閉まる音、押収品を記録する手の動き、現場の時間は淡々と進む。結論は証拠に即して判断されるため、拙速な断定を避ける姿勢が現場にも共有されている。
多様な信仰が共存する社会では、宗教の自由と反民主的な言動の抑止をどう接続するかが常に問われる。今回の一線は、憎悪や差別を土台にした動員を許さないという確認でもある。捜査車両が引き上げたあと、通りはいつもの生活に戻る。静けさの中に、言葉の重さとそれを受け止める制度の重みが残っている。
