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米国の対露制裁の強化を受け、ドイツ政府がロスネフチの独事業の取り扱いを再検討している。独側は2025年10月29日付で米政府から同事業の制裁適用除外を示す文書を受け取ったと説明しており、適用除外の期限は2026年4月までとされる。供給安定と法的確実性を巡り、恒久的な除外確保と国有化・売却の選択肢を秤に掛ける局面である。
背景と今回の動き
ロシアのウクライナ侵攻後、ロスネフチの独子会社はエネルギー確保の観点から2022年以降トラスト管理下に置かれてきた。重要インフラを巡る取引回避の連鎖を断ち、操業と投資を継続させるための暫定措置である。これにより、ドイツの製油・供給網は急場をしのいできたといえる。
一方、米国は2025年に対露エネルギー制裁を一段と強化した。現時点で確認されている範囲では、独政府は10月29日付の米側文書でロスネフチの独事業が新制裁の適用から除外されるとの「第一歩」を得たとしている。独側は米当局と継続協議し、来年4月以降の延長・恒久化を最優先課題として位置づけている。
ただし適用除外は期限付きであり、法的・政治的な前提が変われば再び不確実性が高まる。ドイツ政府内では「除外の恒久化」と「資産措置の抜本策」の双方を比較衡量する必要があり、企業・金融の取引関係者にも再び警戒感が広がっているとみられる。
政府内の選択肢と論点
一部報道によれば、選択肢には(1)米側と協議し恒久的な制裁適用除外を確保する案、(2)独側が事業を差し押さえ、外国投資家に売却する案が含まれる。前者は事業の連続性を保ちやすいが、対米協調と対露関係の動揺に左右されやすい。後者は法的確実性の面で明確だが、補償や係争のリスク、移行期間の運転管理が論点となる。
ロスネフチ独子会社はエネルギー安全保障に直結するため、独政府はエネルギー安全保障法（EnSiG）に基づくトラスト管理を半年ごとに延長してきた。現行制度は供給維持に資する一方、所有権と投資判断の分離が続くため、大規模な設備更新や脱炭素投資の意思決定が遅延する副作用も指摘されてきた。
加えて、制裁体制下では保険・IT・金融のサービス提供が不安定になりやすい。適用除外の「文書」が供給網の信認回復に一定の効果を持つとしても、恒久化が見通せなければ、資金調達コストの上振れや取引先のコンプライアンス判断に再び影響が出る可能性がある。
シュベット製油所の位置づけ
協議の射程には、ロスネフチが支配権を持つシュベット（PCK）製油所も含まれる。同所はドイツ東部の燃料供給を担う中核拠点で、空港・小売・産業向けの石油製品を幅広く出荷してきた。原油ソースの多角化が進んだとはいえ、地域経済と雇用に与える影響は依然大きい。
PCKに加え、ミロ（Karlsruhe）やバイエルノイル（Vohburg）への出資も政策判断を複雑にしている。いずれもパイプライン・港湾・貯蔵のハブと結節しており、所有構造の変更は各種の共同事業契約や供給契約の再交渉を伴う。国有化や売却を選ぶ場合、運転継続と投資計画を止めない移行設計が不可欠である。
現時点で確認されている範囲では、独政府は供給安定を最優先に、PCKの稼働率と製品出荷を落とさないことを基本線としている。適用除外により目先の取引リスクは緩和したが、地域の燃料価格や物流の安定に配慮した「段階的なオプション選択」が求められる。
今後の見通し
今回の適用除外は2026年4月までとされ、独政府は延長・恒久化の協議を米側と続けている。一方で、恒久化に至らない場合や国際環境が再度悪化する場合に備え、差し押さえ・売却などの代替策を法的リスクと費用対効果の両面から詰める作業が並行して進むとみられる。
一部報道によれば、投資家サイドの関心は断続的に示されてきたが、制裁と所有権の不確実性がディール形成の障害となってきた。今回の文書は「第一歩」であり、来年以降の制度設計が投資回復の鍵を握る。短期の供給維持と中長期の脱炭素投資を両立できる枠組みを、政治・規制・市場の三位一体で整えることが不可欠である。
