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西アフリカのギニアビサウで、軍が選挙結果の発表前日にクーデターを起こし、ウマロ・シソコ・エンバロ大統領を追放した。軍は11月27日、ホルタ・イントア将軍と表記されることが多い将軍を暫定大統領として就任させ、少なくとも1年間の「移行政権」を掲げている。隣国セネガルの外務省は、エンバロ氏が特別機で同国に到着したと公表しており、地域全体を巻き込む政治危機となりつつある。選挙の最中になぜ軍が動いたのか、その意味と市民への影響を追う。
生活はどう変わるのか 軍政下に置かれる市民
軍が権力を掌握したのは、大統領選から数日後の11月26日だった。軍は「秩序回復のための高等軍事司令部」を名乗り、選挙手続きを停止するとテレビ演説で発表したとロイター通信は伝える。首都ビサウでは一時的に銃声が響き、官庁や銀行が閉鎖されるなど、市民生活は突然の緊張に包まれた。もっとも翌日には一部の商店が営業を再開し、重武装兵士の姿と日常が同居する不安定な状態が続いている。
国境封鎖や夜間外出禁止令は、人や物資の動きを直撃する。医薬品や食料の多くを輸入に頼る同国では、数日の滞りでも市場価格が跳ね上がりやすい。軍はその後、国境の再開を段階的に進めているとされるが、今後も情勢次第で再び制限が強まる可能性は残る。近隣国と結ばれた陸路や空路は、市民の日常と同時に、エンバロ氏の退避のような政治的避難路としても機能している。
ギニアビサウは以前から、南米産コカインが欧州へ向かう中継地と指摘されてきた。アルジャジーラなどによれば、軍側は今回の権力掌握を「政治家と麻薬密売人による国家の不安定化に対抗する措置」と説明している。一方で、この構図は市民にとって治安強化と人権侵害のどちらにも振れ得る。麻薬取引の摘発が進めば治安向上につながる可能性もあるが、軍の裁量が広がることで、反対派や市民運動が一括りに「治安の脅威」とされる懸念も拭えない。
軍と選挙が絡み合う「不安定の構造」
今回のクーデターは、選挙の正統性をめぐる対立と密接に結びついている。11月23日に行われた大統領選では、現職のエンバロ氏と有力候補のフェルナンド・ディアス氏が、それぞれ勝利を主張し、暫定結果の発表が27日に予定されていた。主要野党勢力の一部は候補擁立を禁じられており、市民団体からは「最初から不公平な選挙だった」との批判も出ていた。選挙制度への不信が高まる中で軍が動いたことは、民主的プロセスの脆さを浮き彫りにしている。
軍の高等司令部は、選挙が「操作されようとしていた」と主張し、自らを国家秩序の守護者と位置づける。一方、ディアス氏陣営は各紙の取材に対し、軍の行動は政治的野心の表れだと批判している。どちらの説明に重きを置くかによって、クーデターの意味づけは大きく変わるが、少なくとも選挙管理機関や司法が信頼されていれば、軍が政治の仲裁者として前面に出る余地は小さかったはずだ。脆弱な制度が、銃を持つ主体に「最終審判」を委ねてしまう構図が見える。
こうした力学は、同国の歴史とも重なる。ロイターやアフリカニュースによれば、ギニアビサウでは独立後、成功・未遂を含めたクーデターが幾度も繰り返されてきた。軍はしばしば政治エリートや麻薬ネットワークと結びつき、互いに牽制し合いながら権力を分け合ってきたとされる。近年、西・中央アフリカではニジェールやガボンなどで軍事政変が相次いでいるが、麻薬中継地という特殊な経済構造を抱える点で、ギニアビサウの不安定さはより複雑だと言える。
国際社会の圧力と、1年後に残る選択肢
地域機構や周辺国は、早い段階から軍に圧力をかけている。セネガル外務省は27日夜、エンバロ氏が西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の仲介で特別機に乗り、同国に到着したと発表した。アフリカ連合(AU)のユスフ委員長も、26日付の声明で今回の軍事行動を「違憲の政権奪取」として強く非難し、エンバロ氏らの即時解放を要求している。クーデターを認めないという地域合意は維持されており、そのこと自体が軍政の行動範囲を狭める要因になっている。
一方で、軍は「約1年の移行期間」で民政に戻すと説明しつつ、具体的な選挙時期や憲法改正の有無については明らかにしていない。過去の事例では、移行政権が任期を延長し続け、文民統治への復帰が何度も先送りされた国も少なくない。治安や汚職対策を理由に軍の影響力が恒常化すれば、短期的な安定と引き換えに、司法や議会の自律性が損なわれるおそれがある。今回の「1年」という数字が、約束か、交渉の出発点にすぎないのかは、今後の国際的働きかけに左右されるだろう。
度重なる軍事介入の下で傷ついた制度を立て直すには、選挙のやり直しや監視体制の強化だけでなく、市民が政治に参加し続けられる環境づくりが欠かせない。クーデターの成否を決めるのは軍の力だけではなく、その後の数年にわたり、誰がどのコストを払いながら統治の形を選び直していくのかという、より長い時間軸での選択なのである。
