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冷たい朝霧が薄く残る慶州の駅前に、臨時の検問所が並び始めている。韓国政府は、アジア太平洋経済協力会議（APEC）首脳会議の開幕を月末に控え、トランプ米大統領が本会議に出席できない可能性が高いと明らかにした。10月13日の国政監査で趙顕外相が述べたもので、訪韓自体は29日からの短期日程で進む見通しだ。舞台は慶州、主役不在の本会議という観測のなかで、二国間外交の駆け引きがいっそう色濃く映る。
“本会議は不参加の公算”——外相が示した見通し
10月13日、国会の国政監査で趙顕外相は、トランプ氏の訪韓について「来る」との認識を示しつつ、APEC首脳会議の本会議への出席は「可能性が高くない」と述べた。現時点で確認されている範囲では、米韓両政府は29日から30日にかけての1泊2日を軸に最終調整を進めているとされる。外相発言は観測報道が交錯するなかで初めて政府高官が示した明確な方向性であり、議事堂内の空気を一段と引き締めたと映る。
焦点は、慶州での「場」にどれだけ主役級の対話を引き寄せられるかに移った。趙氏は米中、米韓、中韓の各首脳会談が慶州で開かれる可能性が高いと指摘した。首脳会談が連鎖すれば、本会議の出欠とは別に、地域秩序や経済協力の新たな指針が示される余地は残る。いわば、セッションの内側よりも廊下や控室の動線に実質が宿る展開である。
一方で日程像には揺らぎも残る。韓国側の説明は1泊2日案を軸とするが、別の報道では29日の日帰り案に言及する向きもある。いずれにせよ、最終判断は移動動線や同週に予定される他の多国間日程との兼ね合いで直前まで流動的とみられる。慶州の街には、警備導入と交通規制の案内が増え、街路樹の色づきとともに緊張感が広がっている。
鍵を握るのは29日——CEOサミットと二国間外交
APECの首脳会議ウィークは10月27日から11月1日まで慶州で続く。本会議は10月31日から11月1日だが、各国の政治日程が最も交錯するのは29日前後である。企業トップが集うCEOサミットは29日から31日に設定され、トランプ氏はここに合わせて一部行事へ出席する見通しとされる。経済安保やAI、半導体など企業テーマが国益と重なるだけに、壇上の一言が為替や株式を揺らす場面も想像される。
実務面では、首脳同士の「横串」をどう通すかが成否を分ける。趙氏は、米韓、米中、中韓の各会談がいずれも慶州で実現する可能性に言及した。会談の形式は正式か略式かを含めて詰めの局面にあるとみられるが、開催が重なれば地域の緊張緩和やサプライチェーンの再設計に向けた合意の糸口が生まれる。参加形態が限定的でも、訪韓の事実が外交上の接触機会を確保する意味は小さくない。
日程観には対比もある。韓国政府関係者は1泊2日での訪韓調整を示す一方、別の紙面は29日の極短期滞在の可能性を伝えた。足並みの差は、同週に重なる多国間会合や二国間協議の積み上げが未了である裏返しでもある。要は、慶州に主要アクターを呼び込み、必要な相手と必要な長さで話せるか——その設計次第で、紙の上の行程表は幾通りにも書き換わり得るということだ。
開催地の重みと、韓国が賭けるもの
20年ぶりの議長国として韓国が選んだ舞台は、古都・慶州である。世界遺産と最先端の会議インフラが交差する地に各国代表団が集い、年初から積み上げてきた議題は「連結・革新・繁栄」という三本柱に収れんしつつある。10月末の首脳ウィークは、その総仕上げとして多層の会合が折り重なる。ゆえに本会議の席順だけで成果を測るのは早計で、周辺の対話空間こそが実利を生むと映る。
仮に米大統領が本会議を欠席しても、訪韓に合わせた二国間合意や共同声明が積み上がれば、開催国としての面目は立つ。逆に主要会談が流れれば、国内での政権評価や地域に向けたメッセージは弱まる。主役の椅子が空いても舞台は終わらない——韓国にとって勝負どころは、緻密な段取りと瞬発力で「会えたか」「何を出せたか」を積分することに尽きる。
会期まで残された時間は少ない。慶州のホテル街では代表団の旗がはためき、警備動線の白線が伸びている。10月29日、誰がどの順番でどこに座るのか。その配置図は、11月1日までの数日間にアジア太平洋の力学を小さく、しかし確かに動かすはずだ。最後に残るのは、行間に記された「合意のかたち」だとみられる。
