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医療従事者や大学教授、宗教団体などでつくる連合が10月4日、米政権が導入した専門職向け「H-1B」ビザの新規申請に10万ドルを課す措置の差し止めを求めて提訴した。突然の高額化は採用と教育を直撃し、病院や教室、礼拝堂の現場から人材が失われる恐れが広がっている。出来事の行方は、米国のイノベーション政策の方向性を占う試金石となりそうだ。
法廷に持ち込まれた10万ドルの衝撃
書類の束を抱えた弁護士が出入りする連邦地裁の朝、原告に名を連ねたのは病院や大学、宗教団体、労働組合まで幅広い顔ぶれである。彼らは新たな申請料が違法で、米経済の要である高度人材の受け入れを細らせると主張し、即時差し止めを求めた。現場で人材確保に奔走してきた担当者の焦りが漂う。
訴えは、雇用主が支払う総費用が従来の数千ドル規模から一気に跳ね上がり、採用計画や人員配置に深刻な断層を生むと警鐘を鳴らす。声明では、救済がなければ病院は医師や看護師を、教会は牧師を、教室は教師を失うとの危機感があらわになった。人手不足に直面する現場ほど打撃は大きいと映る。
現時点で確認されている範囲では、提訴はサンフランシスコの連邦地裁に起こされ、大学教員団体や大手労組、医療人材会社などが名を連ねたと報じられている。被告に名を連ねる政府機関の反応は限定的で、詳細な説明は示されていないという。誰に有利なのか、政策の狙いと現場の実感は鋭くぶつかっている。
大統領令の中身と“36時間”の混乱
発端は9月19日に発出された大統領の宣言である。文書は、H-1Bの乱用が米国の賃金や安全保障を損なっていると断じ、9月21日13:01に効力を生じる措置として、新規のH-1B申請に10万ドルの支払いを求めると定めた。適用期間は12か月で、延長の余地を残す。短い移行期間が、その後の混乱を呼んだとみられる。
宣言は、国外にいる申請予定者を主たる対象とし、支払いがない場合は入国や審査を制限する構造を敷いた。同時に、国益に資する個人・企業・産業には国土安全保障長官が裁量で例外を与え得るとした。労働省には賃金水準の見直し、国土安全保障省には高技能・高賃金の優先化を指示しており、制度の再設計をにじませる文面である。
施行の告知は発表から約36時間後とされ、現場には不安と混乱が広がった。一方で、すでにH-1Bを保持する人や9月21日より前に申請済みの案件は対象外とする政府側の説明が伝えられている。ただ、運用の細部や例外の線引きはなお不透明な点が残り、企業や教育機関の判断を難しくしている。
争点は権限か、現実か—広がる波紋
訴状は争点を明確にする。大統領は入国制限の権限を持つが、10万ドルという実質的な課金の創設は議会の権限を侵すと主張する。加えて、関係省庁が適切な手続や影響評価を経ずに実装したとして、裁判所に命令の差し止めと予測可能性の回復を求めている。統治の分業をどう捉えるかが問われている。
企業が負担するビザ関連費用はこれまで数千ドル規模が通例だったとされる。毎年8万5千件の枠に世界中の人材が殺到し、ITだけでなく医療や教育、宗教の現場でも不可欠な制度になってきた。他方でトランプ氏は、低賃金の置き換えを招く「乱用」だと強く批判してきた経緯がある。相反する評価が長年の溝を浮かび上がらせる。
日本企業や大学も無縁ではない。研究者や医療者の派遣・採用が視野に入る案件では、10万ドルという閾値が計画全体の採算や渡航時期を左右するためだ。偶然の荒波か、必然の転換点か。最初の審理日程や仮差し止めの可否が近く示されるとみられ、追加の政府ガイダンスと併せて注視が必要である。
