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顧問団が部員を前に立ち、全国高校サッカー選手権大会（高校年代の全国大会）への出場を辞退すると伝えた。仙台育英学園高等学校は、男子部員が1年時から同級生らの不適切な言動を受けていたとして、「いじめ重大事態」（いじめ防止対策推進法に基づく深刻な指定）と認定。加害側への指導時間を確保するため、代表権を手放す判断に踏み切った。
出場辞退の決断と伝達
学校は11日に宮城県サッカー協会へ辞退届を提出し、12日に決定を公表した。顧問団と関係教職員は同日、部員全員に出場辞退を説明した。代表校の差し替えは現時点で未定で、組み合わせ抽選会は17日、開幕は12月28日とされる。
仙台育英は県予選を制して代表権を得ていたが、活動は決勝直後から休止していた。学校は、大会に参加した状態では再発防止の取り組みを徹底しにくいと判断し、部の対外活動を年末まで停止する方針を示した。勝利の余熱が残る場所に、立ち止まる時間を持ち込む選択だった。
辞退届は11日午後5時すぎに提出されたという。県協会への連絡後、校内では保護者への周知が始まり、部員たちはそれぞれの帰路で受け止め方を探ったはずだ。決定は、地域の期待と選手の思いの間に静かな溝を生んだ。
見えた“構造”的な問題
学校は3年生の部員延べ53名と当時関わった顧問団への聞き取りを重ね、特定個人に閉じない「構造的いじめ」の存在を確認した。集団からの疎外、いじり、過剰な注意、強要といった行為が重なり、見逃される体制があったとする。問題の根は、部全体の人権意識の不足に及んでいた。
学校は10月以降、この事案を重大事態として扱い、法に基づく調査を続けている。重大事態とは、心身に著しい被害が生じ得る深刻な状況を示す区分のことだ。関係者への聞き取りが進むほど、日常の言葉やふるまいが誰かの生活を削ることが可視化されていった。
被害を訴えた部員の競技環境にも配慮が要された。学校は特定の加害生徒を完全に特定しきれない段階で県決勝に臨み、説明を尽くしたうえで試合に出場したとする。勝負の現場と生活の現場が交わる場所で、選択の重さが積み上がっていった。
再発防止に向けた時間の使い方
年末までの対外活動停止に合わせ、学校は顧問団への人権研修を実施し、研修を受けた顧問が生徒一人ひとりと二者面談を行う。目の前の勝敗からいったん距離を取り、チーム文化の更新に時間を振り向ける。短い処方ではなく、手続きを重ねる道を選ぶ判断である。
全国の舞台に立つ機会は大きい。しかし、指導の密度や人権意識の共有が不十分なままでは、次の世代に同じ歪みを残しかねない。日常の声かけや役割分担を見直し、権力や上下関係の扱いを明文化することが、再出発の土台になっていく。
代表権の差し替えや組み合わせへの影響は大会側の判断に委ねられる。地域の期待は別のチームに引き継がれる可能性があるが、この決定は、競技の成果と学校の責任をどう両立するかという古い問いを、いまの現場に置き直した。
静かな体育館に転がるボールの気配が、次の笛を待っている。
