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雨が上がった夕方の静けさを破ったのは、集合住宅の廊下に漂う緊張だった。2025年10月15日、広島市西区の一室でベトナム国籍のグエン・トゥイ・ガーさん（32）が頭部などを強く殴られ死亡した。広島県警は10月25日、同市佐伯区在住の技能実習生、ディン・ティ・フォン容疑者（32）を強盗殺人と住居侵入の疑いで逮捕した。地域の不安と、在留コミュニティに走った衝撃が広がっている。
逮捕は何を動かしたか
逮捕されたのはベトナム国籍の技能実習生、ディン・ティ・フォン容疑者（32）である。容疑は強盗殺人と住居侵入。捜査当局は、金品を奪う目的で部屋に入り、グエンさん（32）の頭部や顔面を硬い物で複数回殴って殺害したうえ、室内を物色した疑いがあるとみている。容疑者の認否は明らかにされておらず、供述の有無や内容は公表されていない。
事件が発覚したのは2025年10月15日 18:30ごろである。広島市西区中広町の集合住宅で「妻が血を流して倒れている」との通報が寄せられ、駆け付けた警察と消防が室内で倒れていた女性を確認し、その後死亡が判明した。現場は生活感の残る一室で、外からは普段通りの明かりが漏れていたと近隣住民は語る。
現場では玄関付近に多くの血痕が確認され、争った可能性が浮かぶ。司法解剖は10月17日に実施され、死因特定と凶器の特定が急がれている。県警は室内外の足跡や繊維片、接触痕の鑑識に加え、防犯カメラの解析を拡大しており、侵入経路や逃走経路の特定を進めているとみられる。
浮かび上がる被害の連続性
現時点で確認されている範囲では、グエンさんは2025年5月末、自宅周辺で見知らぬ女から暴力を受けてけがをしたとして被害届を出していた。警察は当時、傷害事件として捜査。今回の強盗殺人との関連についても、同一人物か、接点があったのかなどを丁寧に洗い直す方針である。
室内を物色した形跡があることから、金品目的の侵入が示唆される一方、被害者に対する個人的な恨みや面識の有無も焦点になる。県警は周辺カメラ映像の時系列再構成、携帯端末の位置情報や通信履歴、金銭の動きなどの分析を重ね、5月の傷害と10月の殺害の因果関係を探っていると映る。
被害者と容疑者はいずれもベトナム国籍である。生活圏が重なっていたのか、勤務先や知人関係に接点があったのかは不明だが、在留コミュニティ内での動線やSNS上のつながりも調べるとみられる。背景が見えないまま名前だけが躍る状況に、当事者コミュニティの不安は広がっている。
街のざわめきとこれから
事件直後、現場周辺では「早く犯人が見つかってほしい」「夜道が怖い」との声が相次いだ。玄関付近での激しい痕跡が報じられ、住民は鍵の二重施錠や共用部の見回りを強めている。廊下に響く足音やエレベーターの作動音が、いつもよりも大きく聞こえる夜が続いた。
一方で、事件は容疑段階である。供述の有無、動機の特定、物証の積み上げが不可欠だ。司法解剖結果や押収品の鑑定、アリバイや行動記録の検証が進み、逮捕に至る決め手がどこにあったのかも今後明らかになるだろう。報道各社の初報では現場状況の断片が伝えられたが、全体像はこれからだといえる。
広島県警は、5月末の傷害と10月の強盗殺人の関連や単独犯か複数関与かなど、残る疑問の解明を進める方針である。地域の目と日常の暮らしを守る警戒の中で、被害者がなぜ狙われたのか、なぜ自宅だったのか。答えはまだ途上にある。事実関係が積み上がるのを待ちながら、街は静かにその結末を見つめている。
