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朝の静けさを破るようにゾウの声が響き、職員たちはおりへ走った。千葉県市原市の動物園「市原ぞうの国」で21日午前、タイ出身の飼育員サランガム・タワンさん(30)が倒れているのが見つかり、その後死亡が確認された。家族連れに人気のふれあい型施設で起きた突然の事故は、動物と共に働く人々の現場にある危うさを浮かび上がらせている。
ゾウ使いの死、日常作業の最中に
市原署などによると、21日午前8時25分ごろ、「男性がゾウに踏まれ頭をけがして意識がない」と同僚の女性から119番通報があった。倒れていたのは、市原ぞうの国でゾウの世話を担当していたサランガムさんで、救急搬送されたが病院で死亡が確認された。異国で働き、来園者を背にゾウと向き合ってきた30歳の若い命が、平日の朝に突然途切れたことになる。
サランガムさんは事故当時、雌のアジアゾウ1頭がいる鉄製のおりの中で、1人でふんの片付けなど清掃をしていたという。ゾウの鳴き声が続くのに違和感を覚えた別の職員が確認に向かうと、額から血を流した状態で倒れていた。額の傷や顔面骨折の疑いがあり、警察はゾウに頭部を踏みつけられた可能性も含め、経緯を慎重に調べている。
ふれあいを掲げる動物園に突き付けられた現実
市原ぞうの国は、姉妹園サユリワールドと合わせ「アニマルワンダーリゾウト」の名で知られるリゾート型動物園で、国内でも有数の数のゾウが暮らし、えさやりや背中に乗る体験が人気を集めてきた。人と動物の距離の近さを売りにしてきた施設は今回の事故を受け、22日の臨時休園を決めたうえで、ホームページ上で遺族への弔意と来園予定者へのおわびを示し、業務の見直しと安全確保の徹底に取り組むと表明している。
大型動物の飼育現場では、動物と同じ空間に入る作業が最も緊張を要するとされる。日々の清掃や健康管理は欠かせない一方で、ちょっとしたきっかけで動物が興奮し、取り返しのつかない事態になり得ることを、今回の事故はあらためて示したと言えるだろう。園は今後、作業人数の在り方やおりの構造、合図の方法などを点検し、来園者が笑顔で過ごせる裏側にある安全の仕組みを、静かに組み直していくことになりそうだ。
再びゾウたちの足音が響く日、園内で交わされる歓声の陰には、命を託された現場で失われた1人の飼育員の存在が、長く記憶として刻まれていく。
