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「駐車場所で口論になり、相手の車のボンネットにしがみついている」。緊迫した110番が、伊賀市のサービスエリアの駐車場に警察を走らせた。10日夜、駐車をめぐる言い争いは急発進へと転じ、しがみつく男性は約50m引きずられてけがを負った。運転の男は走り去り、殺人未遂容疑で逮捕。身近な苛立ちが刑事事件へ変わる境目の近さが浮かぶ。
口論から急発進、50 mの危険な走行
現場は三重県伊賀市柘植町、名阪国道上りの伊賀サービスエリア駐車場だ。10日午後9時ごろ、「駐車場所をめぐって口論になり、相手の車のボンネットにしがみついている」と男性（46）から110番が入った。警察官が駆けつけて事情を聴くと、言い争いの後、相手の男が車で立ち去ろうとし、男性はその前に立ちふさがったという。
運転席の男は、男性をボンネットに乗せたまま駐車場内で急発進や急停車、蛇行を繰り返し、振り落とそうとした。男性の説明では、しがみついた状態のまま約50 m進み、やがて振り落とされて右ひじに軽傷を負った。動く車と人の距離が一瞬でゼロになるとき、駐車場という低速の空間でも危険は致命的な濃さを帯びる。
男はそのまま走り去ったが、男性が車の特徴を覚えていたため、四日市市内で車両と運転者が見つかった。警察は殺人未遂の疑いで逮捕。男は東京都小金井市在住の中国籍タクシー運転手で、「ボンネットに乗せて走ったが、殺そうとしたわけではない」と供述している。意図の有無は、これからの捜査で丁寧に検証される。
サービスエリアという舞台
名阪国道（国道25号の自動車専用道路）にある伊賀サービスエリアは、給油や休憩で短時間の停車と出入りが頻繁に重なる。区画内は低速でも、アクセルとブレーキの操作ひとつで車体は強い力を生む。人と車の動線が交錯し、死角ができやすい構造は、ささいな衝突でも転倒や打撲に直結する。短い距離の加減速が事故の重さを決める場面が多い。
駐車場所をめぐる不満は、順番や区画の解釈、前後車の視界を遮る駐め方への反発など、判断の違いから立ち上がる。言葉が荒くなるほど互いの余地は狭まり、車の操作が感情に引きずられやすくなる。発進線上に立つ、車体に手をかける、といった動作が重なると、双方の危険は一挙に高まる。低速のはずの空間で、速度より先に危険が加速する。
万一のときは、動く車体から距離を取り、周囲の安全を確かめて通報する判断が要る。110番（警察への緊急通報）は現場の位置と状況を端的に伝えることが鍵だ。車内・車外のどちらにいても、身体を車体に預けた対峙は避けるほうがよい。駐車場の混雑や疲労が重なる時間帯ほど、小さな合図やアイコンタクトが摩擦を和らげる。
「殺人未遂」という疑いの重さ
殺人未遂（人の生命を奪う意思で行為に着手したが、結果に至らなかった場合も処罰される罪）は、意図と行為の危険性が焦点になる。人がボンネットに取り付いた状態での急発進や蛇行が、生命への具体的危険を生じさせたかが評価される。運転の態様は言い分だけでなく、現場の痕跡や映像、速度や加減速の実測から総合的に見られる。
捜査では、防犯カメラや目撃、車両の損傷、タイヤ痕の位置関係、車載機器の履歴などが突き合わせられる。被疑者の供述と被害状況の整合、発進前後のやり取り、車線や区画の混雑度も重要だ。意図の有無は内心だが、外に現れた操作が具体的危険を伴っていたかは客観資料で検証できる。判断は最終的に証拠の積み上げが左右する。
今回の出来事は、日常の駐車場でも一線を越える危険が潜むことを改めて示す。怒りの立ち上がりは早く、冷静さの回復は遅い。短い距離の移動、短い時間のやり取りほど、用心の深さで結果は変わる。言葉の選び方と距離の取り方、そして動く車には近づかないという基本が、最も確実な安全策である。
夜の駐車場にアイドリングの振動だけが残った。小さな行き違いが線を越えない工夫を、次の停車で思い出したい。
