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堅い握手の先にあるのは、衛星が描く日常の地図である。IHIがフィンランドのICEYEとSAR衛星の調達契約を2025年10月16日に結び、衛星コンステレーションの構築に踏み出した。初期4基に加え最大20基のオプションを備え、国内での組立・試験を進める計画だ。2026年度初頭からデータ取得を始め、国家・経済安全保障に加えて公共・商業の新たな需要を掘り起こす構えが鮮明になっている。
最初の4基、その先の24基へ
調達契約は2025年10月16日。IHIはICEYE製のSAR衛星4基と取得システムをまず導入し、追加20基のオプションを付けた。目標は2029年度までに最大24基の体制を築くことにある。両社は同年5月22日に締結した覚書を足場に協議を重ね、計画を実行段階へ移した。会見写真には、IHIの井手博社長とICEYEのラファル・モドジェフスキCEOが並ぶ。星座を意味するコンステレーションの名の通り、数が力になる設計である。
運用の起点は近い。衛星は国内で組立・試験を経て段階的に投入され、2026年度初頭からデータ提供を始める見通しだ。全天候・昼夜を問わず観測できるSARの特性は、雲や夜間に遮られがちな現場の空白を埋める。日本が優先的にアクセスする枠組みも示され、同盟国・同志国へのデータ提供の構想も語られている。計画は、単なる追加発注の道筋ではなく、使い方を検証しながら最適な規模を見極める段取りと映る。
役割分担は明確だ。ICEYEは量産実績を持つ小型SAR衛星の技術と運用ノウハウを提供し、IHIは国内生産や運用基盤の構築で応える。衛星の供給だけでなく、取得・処理・配信までの一連の流れを日本の産業基盤に乗せる発想である。衛星の像を磨くのはセンサーだが、事業の輪郭を決めるのは地上側の体制であることがにじむ。
広がるユースケースと市場づくり
まず想定されるのは安全保障だ。海上の不審な動きや国境周辺の変化、広域の災害発生時の把握など、SARが得意とする「連続監視」の価値が際立つ。井手社長は本件を「未来を見据えた投資」と位置づけ、社会の安全・安心に資する基盤づくりを掲げる。画像そのものより「継続的に見続けられること」への需要は根強く、優先撮像や迅速配信の仕組みが運用の肝になるとみられる。
一方で、公共・商用の射程も広い。インフラ設備の変状検知、山地崩壊の予兆把握、港湾の混雑監視、保険分野の被害査定の高度化など、地上データと組み合わせるほど価値が増幅する。IHIはまず高精細データの需要を見極め、ユースケースを創出しながらオプション行使の是非を判断する構えだ。単なる「データ販売」から一歩進み、課題別のソリューションとして届ける設計思想がうかがえる。
センサーの多様化も鍵だ。IHIは光学、RF、IR、VDES、ハイパースペクトルなど、異なる特性の衛星を重ねる構想を掲げる。SARで動きを捉え、光学で識別を補い、RFで電波の発信源を特定するという具合に、多層の観測で「出来事の意味」を抽出する狙いである。異種データを束ねる解析と配信のレイヤーが磨かれれば、商用分野の裾野はさらに広がるだろう。
産業の地盤と安全保障が変わる
国内組立・試験の意味は大きい。部材調達から最終検査までの工程が国内に根づけば、宇宙産業のサプライチェーンは厚みを増す。技能の継承や部品の共通化が進めば、調達の弾力性も高まる。衛星を「運ぶ」だけでなく「作れる」ことは、非常時の回復力にも直結する。現時点で確認されている範囲では、製造拠点の国内整備に向けた準備がすでに走り出している。
安全保障の視点でも変化が生じる。自前の継続観測能力は、迅速な状況判断を支える「主権的アクセス」を意味する。災害の初動、周辺海域の把握、重要インフラの監視など、衛星が見せるのは危機の断片ではなく時系列の物語だ。全天候・昼夜の網羅性と、リビジットの高さが重なれば、対応の質が一段上がる。経済安全保障の観点でも、需給や物流の見える化は実務へ直結すると映る。
空を行き交う点の光は、地上の意思を映す鏡でもある。防衛と公共、そして商業が交わる境界に新しい基盤を置く試みは、日本の宇宙産業の地平を少し押し広げるのかもしれない。衛星がもたらす連続した視界の先に、どんな判断と行動が紡がれるのか。その輪郭は、これから描かれていく。
