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ブラジル北部ベレンの会場で、インドネシア代表団の一人が静かに肩を落とした。石炭火力発電所6.7ギガワット分を2030年までに止めるはずだった計画が、資金のめどが立たず揺らいでいる。先進国が約束した支援が届かない中、現場では「そもそも石炭をやめることが最善なのか」さえ問い直す声が上がり始めている。
約束の200億ドルが動かない 揺らぐ石炭火力フェーズアウト
インドネシアは、気候変動対策として石炭火力発電の一部を前倒しで引退させる計画を掲げてきた。対象となるのは国内の石炭火力容量の約13%にあたる6.7ギガワット分で、2030年までの段階的な停止を目指す。その後の電力需要は再生可能エネルギーなどで補う構想だが、前提となる資金がまだほとんど届いていない。
この計画を支える枠組みが、公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)である。JETPは、石炭依存からの転換を進める発展途上国を先進国がまとめて支援する仕組みで、インドネシア向けには2022年、向こう3~5年で総額200億ドルを動員することが打ち出された。当初は米国や欧州連合(EU)、日本など10の国・地域が参加していたが、その後米国は離脱している。
JETPインドネシア事務局長のポール・ブタルブタル氏は、2025年にブラジルで開かれている国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)の場で、「石炭火力廃止に充てる資金について、どの国からも確約が得られていない」と明かした。送電網や再エネ、電動輸送などには数十億ドル規模の融資や出資、助成金が承認される一方、肝心の石炭火力の早期閉鎖には1件も資金が付いていないという。
同氏は「もし石炭火力の段階的廃止に喜んで資金を出す国が誰もいないのであれば、フェーズアウトが本当に最善の選択肢なのか考え直さざるを得ない」とも語った。火力発電量で世界7位、東南アジア最大の経済を抱える国が慎重姿勢に傾けば、その影響は他の途上国にも波及しかねない。計画が止まるかどうかは、約束された資金が実際に動き出すかにかかっている。
JETPという仕組みと、日本・ドイツが背負う重さ
JETPは、石炭など化石燃料に依存する国が「公正」にエネルギー転換できるよう、先進国が資金や技術をまとめて提供する枠組みだ。「公正」とされるのは、温室効果ガスを長年多く排出してきた側が、より多くの負担を担うべきだという考え方に基づくためである。インドネシア向けJETPには、G7諸国にデンマークとノルウェーを加えた国々が名を連ねたが、実際の資金配分では、贈与にあたる「グラント」がわずかで、融資が中心という構図が続いてきた。
インドネシアでは、こうした条件では真に「公正」とは言えないのではないかという議論も出ている。石炭火力を予定より早く止めるには、発電事業者への補償や労働者の再訓練、新たな電源の整備など、短期的に大きなコストが集中するからだ。負債だけが増える形になれば、エネルギー転換そのものが国民生活を圧迫しかねないとの懸念も根強い。
その一方で、石炭を動かし続ければ、将来の気候災害や健康被害のコストが膨らむことも明らかになりつつある。だからこそ国際社会は、石炭火力の早期廃止を含むエネルギー転換に対し、補助金や低利融資だけでなく、返済不要の支援をどこまで増やせるかを問われている。インドネシアのケースは、その試金石になっている。
現在、インドネシア向けJETPは日本とドイツが調整役を担っているとされる。日本政府は今回の報道にコメントしておらず、ドイツ政府は「JETPの目標を達成するうえで、最も効率的で政治的に実現可能な手法」を見いだすため、インドネシアと協力していると説明するにとどまる。静かに進む協議の先に、石炭火力の煙がいつ消えるのか、会場の空気は重いままだ。
ベレンの夕暮れの川面には、会議場の灯りがゆっくりと映り込む。約束された資金と、まだ形にならない信頼とのあいだに横たわる距離も、その水面の揺らぎのように見えてくる。