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計器の針が少し下がった。いすゞ自動車が2025年11月10日、「第41回素形材産業技術賞」で経済産業省製造産業局長賞を受賞したと発表した。対象は藤沢工場の生産部門要素技術部が、宮本工業所と互交産業と協働して開発した大型ダイカスト用高効率アルミニウム溶解炉だ。溶解工程のエネルギーを大きく抑え、次世代燃料にも応じる設計が評価された。ダイカスト主流の現場に、そのまま届く技術である。
現場起点で磨かれた大型溶解炉の工夫
開発の核は「いま使っているラインで確実に効くこと」だという。小型の高効率炉で積み上げてきた要素技術を大型へ拡張し、溶解・保持の伝熱効率を高めつつ、熱のムダを出さない流路設計と制御を重ねた。藤沢工場の現場が抱えてきた課題を一つずつ解きほぐし、鋳造資材の知見を持つパートナーと設計を往復。大型でも歩留まりを落とさず、既存設備と相性良く動くことに徹した。
結果として、ダイカストの大半を担うサイズ帯に対応し、近年注目されるギガキャスト（車体大型一体成形）にも適用範囲を広げた。大型化で増えがちなガス巻き込みや温度ばらつきへの配慮を先回りし、品質側のリスクを工程内でつぶす設計を採った点も特徴だ。開発の矢印が工場側に向いたことで、技術が「ショーケース」で終わらず、導入のハードルが下がった。
エネルギー半減へ、経済性と環境性の同居
自動車用アルミ鋳物の8割はダイカストで生産される。その中で最もエネルギーを要するのが溶解炉だ。本技術はここに切り込み、燃料消費を従来の半分近くまで削減した。熱の取り回しと損失抑制を徹底することで、燃費を落とさず能力を確保。単なる省エネ策ではなく、量産のテンポを守ることを条件に据えた点が、大型炉での採用を後押しする。
燃料は都市ガスに限らない。水素、バイオ燃料、合成ガスなど複数の選択肢に対応するマルチフューエル設計をとり、今年8月には水素燃料での稼働実証を行った。高温溶湯へのガス吸収が品質に響く懸念に対しては炉内の雰囲気制御や伝熱設計で向き合い、必要な水素量の抑制と品質の両立を確認したとする。燃料事情が揺れる局面でも、経済性を損なわずにカーボンニュートラルへ踏み出す足場になる。
表彰の意味と、広がりへの見取り図
素形材産業技術賞は、一般財団法人素形材センターが主催し、素形材（鋳造や鍛造などの素材成形）分野の技術水準向上に顕著な貢献をした開発者をたたえる制度だ。今回の局長賞は、業界全体への展開可能性や将来性、そして経済性と環境性の両立が評価軸になった。溶解炉のようにエネルギー密度が高く、かつ各社の設備事情が色濃く出る領域で“横展開”を見据えたこと自体に意味がある。
いすゞは中期経営計画「ISUZU Transformation Growth to 2030（IX）」でカーボンニュートラルソリューションを重要戦略に据える。今回の大型炉は、製品の電動化だけでは減らし切れない製造現場のCO2に踏み込んだ一手だ。次世代燃料を現実の工程に接続することで、供給や価格が変動しても生産を止めない“しなやかさ”を持たせる。鋳造の標準工程に近い技術であるほど、波及の速度は速いはずだ。
炉の前で赤外線計器が静かに光る。静かな動きが、次の展開を待っている。
