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潮の匂いが残る夜の伊東で、票の行方がはっきりした。定数20の静岡県伊東市議選は2025年10月19日に投開票され、学歴詐称が指摘される田久保真紀市長への再度の不信任に賛成の意向を示す19人が当選したとされる。31日に招集される臨時議会で決議が再び可決されれば、市長は失職する公算が大きい。次の一手は、市政の針路そのものを左右する。
票が示した多数と、広がる「再度の不信任」
開票所に並んだ票の束は、議会の力学を塗り替えた。今回の市議選で当選した20人のうち、19人が再度の不信任決議案に賛成する意向を示していると現時点で伝えられている。議会の過半を大きく上回る布陣で、臨時議会に向けた空気は一段と固まりつつあると映る。市政の落ち着きを求める声と、説明責任を問う視線が交錯している。
前職18人が全員当選した事実も、継続性への期待を物語る。中島弘道前議長は10月19日夜、記者団に「臨時議会が開かれたらもう一度不信任を決議し、落ち着いた元の市政を取り戻したい」と述べ、議会側の意思を明確にした。選挙前の混乱を経て、意思決定の回路を取り戻すべきだという市内の空気感がにじむ。
一方で、票は二者択一の単純な図式だけでは語り切れない。地域経済や観光、防災など足元のテーマに加え、首長と議会の関係をどう再設計するかという「制度」の問題も突きつけられている。選挙という節目は、結果が出た瞬間から次の責任を伴う。臨時議会での一票一言が、行政の実行力に直結する局面が続くとみられる。
田久保市長の進退と、問われる説明
今回の焦点は、市長の学歴詐称が指摘されたことに端を発する信頼の揺らぎにある。前回の不信任可決後、田久保氏は議会を解散して対抗したが、再び多数派が「不信任賛成」で固まった構図が浮かぶ。地方自治法に基づけば、再度の不信任可決で首長は進退を迫られる。制度が用意する歯止めが、市政の説明責任を促す仕組みとして作動しているといえる。
田久保氏は同19日、開票結果の確定前に民放番組に出演し、失職の可能性に関して「周りが私に期待して託したいという思いを寄せていただけるなら、全力で応えたい」と語った。続投への意欲をにじませつつも、求められるのは一点の曇りもない説明である。市長室の言葉と市民の肌感覚が、どこで重なるのかが問われている。
現時点で確認されている範囲では、論点は二つに収れんする。第一に、指摘事項への検証と説明の透明性をどう担保するか。第二に、観光都市としての稼ぐ力や防災、子育てといった日々の政策を滞りなく前へ進める体制をどう築くかである。政治的対立を超えて、行政の継続性と信頼回復を両立させる処方箋が要る。
臨時議会から市長選へ、動く時間軸
臨時議会は10月31日に招集される見通しだ。ここで再度の不信任決議案が可決されれば、市長は失職する流れになるとみられる。その場合、首長の欠缺を受けて、市長選は50日以内に実施されるのが原則だ。選挙管理の準備や年末の行事日程も踏まえ、スケジュールの詰めが急がれる段階に入る。
一部報道では、告示が2025年12月7日、投開票が同14日という日程が浮上している。年の瀬の選挙は投票行動に影響しやすく、啓発や期日前投票の体制強化が鍵を握る。市内では宿泊・観光業の年末需要も重なるだけに、行政の機動力と市民生活のリズムをどう整合させるかが試される局面である。
仮に田久保氏が再び立候補すれば、争点は一層明確になる。説明責任と継続性、そして実行力の三点で候補者が競い、市民が最終判断を下す舞台が整う。混乱の延長線上でなく、選択の結果としての「次の伊東」をどう描けるか。温泉街の湯気の向こうに、静かながら確かな分岐点が見えている。
