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静かな昼のキャンパスに、緊張が走った。2025年10月28日 11:55ごろ、盛岡市上田3丁目の岩手大学敷地内で学生が「クマを見た」と通報し、大学西側の国際交流会館周辺で体長約1メートルのクマ1頭が確認された。けが人は確認されていない。同大は同日午後の講義をすべて休講とし、学生や教職員の安全確保を最優先とした判断が広がった。
静かな校舎の脇で起きた「非常時」
秋の風が冷たさを帯び始めた昼前、大学の通路に人の足が止まった。学生が見たという黒い影は、学外の森に消えるのではなく、国際交流会館の側に現れたとされる。現場は講義棟や寮に近い生活動線で、日常の延長に突然の野生が交じる光景が浮かぶ。現時点で確認されている範囲では、体長は約1メートル。幼獣か若い個体とみられ、人の気配に驚きながら移動した可能性がある。
通報を受け、岩手県警盛岡東署の署員が駆けつけ、該当エリアで個体を確認したとされる。構内では誘導が行われ、人の流れをできるだけ止める対応がとられた。周辺は市街地に連なる住宅や店舗が点在し、校地境界には緑地も残る。人の活動域と野生動物の回廊が重なりやすい地形が、今回の接近を後押ししたと映る。
けが人は報告されていないが、目撃と確認の間に起きる数分の揺らぎが、危険と隣り合わせである事実を示す。見た目が小柄でもクマはクマである。移動速度は人を凌ぎ、反射的な威嚇行動が事故につながりかねない。現場の緊張は、単なる珍事ではなく、都市の真ん中での「野生との距離」を問う出来事として残る。
市街地でも相次ぐ出没、広がる安全対応
大学は同日午後の講義をすべて休講とした。決定は2025年10月28日に公表され、構内の滞在人口をいったん下げることで接触リスクを抑える狙いがあったとみられる。研究や課外活動も見直しが進み、学生には屋外での単独移動を避けるよう注意喚起が広がった。休講は学びを止める選択に見えるが、危機対応としては妥当な「間（ま）」を置く措置である。
市内では同じ28日の朝、中心部にある岩手銀行本店の地下駐車場に別のクマが入り込んでいるのが確認され、捕獲されたとの報もある。大学から南東へ約2キロという近さは、市街地全体での出没が面的に広がっている可能性を示唆する。一部報道によれば、早朝の人の動きが少ない時間帯でも侵入が起きており、通勤や搬入の導線とも接する地点でのリスクが浮かぶ。
警察や自治体は、現場周辺の巡回強化や情報収集を続けるとみられる。大学側の休講判断とあわせ、事業所や学校が一時的な入退構の制限や誘導を行うことで、偶発的な遭遇の確率は下げられる。滑らかな都市の生活リズムに割り込む野生の一挙一動を、どう人の側の行動設計で受け止めるか。今回の対応は、その実践例として記憶される。
野生との距離をとるために
なぜ街にクマが現れるのか。季節の実りの偏りや人里近い藪の増加、河川敷や線路沿いの緑地が生む移動の回廊など、複数の要因が重なると考えられる。山の餌条件が悪い年だけの話ではない。市街地の「隙」を縫うように移動し、夜明けや薄暮の時間帯に活動が重なることで、人の生活圏に入り込む機会が増える構図が浮かぶ。
基本の対策は平凡だが有効である。ゴミや果樹の落果を放置しない、藪を刈って見通しを確保する、子どもの登下校路や通勤路で単独行動を避ける、夜間は明かりと音で存在を知らせる。遭遇時は背を向けて走らず、距離を取りながら静かに後退し、周囲に知らせる。地域での情報共有が早ければ早いほど、偶然の一歩は交わしやすくなる。
キャンパスに生じた非日常は、都市と自然の境界が解けつつある現実を映す。今回の休講は学びの中断ではなく、地域の安全を優先するための短い呼吸であったと受け止めたい。秋が深まるなか、日々の暮らしの中で野生との距離をどう設計し直すか。問いは静かに、しかし確かに広がっている。
